2024.11.26
営業力

SPIN営業術とは?:BtoBマーケティングの仮説思考で組み立てる大型商談のための4つの質問

法人向けビジネス、BtoBマーケティングをしている企業の営業組織では、

大型商談が決まらない
ぎりぎりでライバルにひっくり返される
最後に値段の勝負になる

という営業の悩み、ありますよね。
この問題を解決するのに有効なSPIN営業術について説明をしていきます。

この記事の内容は;

  • 潜在ニーズと顕在ニーズ
  • 大型商談を成功に導く4つの質問
  • マーケター的SPIN営業術

◾️ SPIN営業術とは?〜営業に必要なマーケティング的仮説の立て方

法人向けビジネスでの大型商談をまとめていくときには、仮説を立てて商談を進めていくことが必要です。なぜなら、顧客が持つ本当のニーズをあぶり出すこと、そしてそこに自社の強みを当てていくことが、成約に直結するからです。

仮説を立て商談を優位に進めていけるニール・ラッカム氏著のビジネス書「SPIN営業術」という考え方を、マーケティングの視点で考えていきましょう。

「SPIN営業術」というタイトルなので、営業についての手法の本と解釈されることもありますが、顧客視点でこの考え方を説明していきます。
(書籍はこちら)
 SPIN営業術.jpg

特に、SPIN営業術のプロセスの中で重要な潜在ニーズのあぶり出し方と、それを顧客企業の中で顕在化させるプロセスを、マーケティングの考え方で解説していきます。


◾️戦略営業に必須の仮説の立て方

大型商談が決まりづらいのはなぜでしょうか?
それは、顧客企業の中には意思決定者が複数いるため、成約までのプロセスが複雑であることがあります。

そしてもう1つ重要なことは、潜在ニーズをあぶり出して、それを顧客企業内で顕在化させ「切実な問題だ」と認識させる必要があります。

なぜなら、潜在ニーズだけでは企業内での決定的な成約理由にならないため、より緊急度が高いニーズだ、と顕在化させる必要があるからです。

こういった戦略営業を進めるには仮説が必要です。

顧客の潜在的なニーズは、単純に「何にお困りですか?」というようなストレートな質問では引き出せません。なぜなら、顧客自身が気づいていないことが潜在ニーズなので、単純に聞いても顧客が答えられないからです。

なので、潜在ニーズを引き出すには、仮説を立てて商談や普段の雑談の中で、引き出していくのです。

そして引き出した潜在ニーズを顕在化させるための仮説も必要です。

これらのニーズを引き出せる"4つの質問"をして商談を成功させよう、というのがSPIN営業術の考え方です。

営業という名前がついていますが、こうやって考えてくるとマーケティングの視点で組み立てていく戦略営業ですよね。


◾️ 潜在ニーズと顕在ニーズの違いとは?

4つの質問を考える前に、もう一度、潜在ニーズと顕在ニーズの違いをはっきりさせていきましょう。
 
まず、潜在ニーズとは、お客さんが今は気づいていないけれども教えてもらえたら嬉しいことです。すなわち、お客さんが今もっている不満とか、問題点のことです。

一方で顕在ニーズとは、今すでにお客さんが認識している「具体的な」欲求を表します。
 
法人営業では、顧客の潜在ニーズをあぶりだすだけでは契約には至らないことが大半です。

潜在ニーズとは、ぼんやりした不満です。「今、売り上げ落ちてるんだよね」とか
「うちの設備が古いんだよね」といったことです。
 
顕在ニーズは、今すぐにも取り入れたい切実な欲求です。

「売り上げが上がらないから、工場の設備を変えなければ生産性が上がらない」とか
「今までのドブ板営業が通用しなくなってきたから、ウェブサイトを改善してインサイドセールスを始めたいんだよね」
といったことです。
 
法人営業での大型商談では「困ってるんだよね」くらいのぼんやりしたニーズでは、成約に至りません。これを導入しなければ売り上げが下がり続ける、社員の生産性が上がらない、と顧客企業が切羽詰まらなければ、成約につながらないのです。
 
受注規模が小さくて、マネージャーや管理職レベルで決済できるような小型商談であれば、
不満の解消などはそこそこ効果的ですが、大型商談になるとその効果は見込めません。
 
大型商談になればなるほど、窓口担当者が話を聞いて、相見積もりを取り、稟議を課長、部長、取締役にまで上げ社内会議をし、最終的に社長決済までいくというプロセスを経ます。このすべての承認を得られる説得力を持つ"危機感"すなわち切実なニーズを顕在化させる必要があるのです。

なので、漠然とした潜在ニーズのあぶり出しだけでは難しいのです
 
とはいうものの、まずは潜在ニーズが何かを把握できないと、顕在ニーズに繋げられません。
なので、あぶり出した潜在ニーズを顕在化させることが必要なのです。

潜在ニーズの炙り出しは、必要な条件ですが、それだけでは、十分ではないのです。
 
見つけた潜在ニーズを顧客の社内で、
「売上アップにはこの設備が必要だ」
「このシステムを導入しなければコスト改善できない」
といった具合に顕在化させなければ、法人営業では制約に結びつかないのです


◾️潜在ニーズを顕在化させる2つのアプローチ

SPIN営業術では、この潜在ニーズの顕在化のさせ方を、商談時での質問のやり方にフォーカスを当てて説明しているのです。
 
まず潜在ニーズを顕在化させるには、2つのアプローチがあると筆者は言っています。
1つは、潜在ニーズの問題に焦点を当てて"膨らませる"という質問の仕方。
もう一つは、"解決方法"に焦点を当てて変化させるというやり方です。

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この2つのアプローチで、顧客の不満をより具体的な顕在ニーズに変えていきましょうといっているのです。
 
さて、ここで重要なことは、この図にあることを大きな絵で全体像として組み立てた上で、1つ1つ質問をしていくことです。逆にいうと、答えが返ってきてから次の質問を考えるというような、いきあたりばったりではニーズをあぶり出せないのです。
 
その点だけ注意しましょう。

◾️ SPIN営業術の4つの質問
 

SPIN営業術で紹介されている4つの質問について、もう少し詳しくみていきましょう。
 
顧客の今の状況 Situationですね。次に顧客の問題 Problemです。そして、示唆すなわちその問題に潜んでいること Implicationです。そして最後にその問題を解決できる策 Need-Payoffです。この4つの頭文字をとってSPINと呼んでいます。
 
次に、この4つの質問のそれぞれで何を聞き出すかを説明します。

1. 状況 Situation

まずは状況のところ、これは事実ですね。今の売り上げや、仕入れ先、全体の予算などです。

2. 問題 Problem

問題のところはまさに潜在ニーズなので、今顧客が抱えている不満、ぼんやりとした欲求です。

3. 示唆 Implication

示唆のところが若干わかりづらいかと思いますが、この示唆とは「その問題を放っておくとまずいのではないか?」ということを示唆、教えてあげるということです。なので、ここでは問題の深刻さを深掘りして、浮き彫りにすることが必要です。

4. 解決 Need-Payoff

そして最後に、「うちの会社のサービスを導入すれば、かけるコスト以上の求めている効果が得られますよ」という具体的な問題を解決できる策は何か?価値に見合うかを見込み客に認識させるように聞き出す。といった具合です。


◾️  SPIN営業術4つの質問を成功させるには

この4つの質問で、前半の2つの質問は、必要な情報なので聞かなければなりませんが、ある意味当たり前のことなので成約には直結しません。

成約に直結するのは、示唆の質問と解決の質問への答えです。マーケティングでは、ニーズがあるところにチャンスがあると考えるので、ニーズを引き出す質問への答えが大事なのは、当たり前と言えば当たり前ですよね。

後ろの2つの質問で引き出す答えを最重要だと考えてください。なので、このSPIN営業術というフレームワークで得意先への質問を考えるときは、この全体像をまずは考えた上で、1つ1つ、特に示唆と解決策の質問ができるように、右側の部分から逆算して組み立てていきましょう。


◾️ SPIN営業術の4つの質問の事例

では、4つの質問の事例を、製造業に生産設備、機械の営業に行くという事例で1つ1つ考えていきましょう。得意先に、新しい設備の導入を売り込む営業活動を想定しています。
 
SPIN営業術で大事なのは、質問を考えることですが、その質問は欲しい答えから逆算して考えましょう。したがって、ここでは4つのフェイズでのそれぞれ期待する答えとそれを引き出す質問を説明していきます。 


1.    状況のフェイズ

まず、状況を知るフェイズで欲しい答えは、今の設備の状況です。     
 状況の質問は、「あのラインの設備は、入れてから何年くらいになるのですか?」といった、今の設備の具合を聞きだします。

 
2.    問題のフェイズ

次に問題のフェイズでは、設備に対して感じている不満などの問題点を引き出しましょう。なので、「今の設備に満足ですか?」といったように、得意先が不満に感じていることがあるのか、あるとしたらどれくらいの深刻さなのか、という問題に思っているであろうことを聞き出すような質問をします。
 
ここまでの2つの質問は、さらっといきたいところです。 


3.    示唆のフェイズ

次の示唆の質問で引き出す答えが重要です。ここで期待したいのは、「今の設備だとコストがかかるんだよね」「効率が上がらなくて」ということです。
そして理想的には「人手が余計にかかる」「利益が出せないから困っている」といった状況まで聞き出したいところです。
 
ここは「古い設備だとコストがかかるのではありませんか?」「効率が落ちているのでないですか?」という示唆をして、潜在ニーズをあぶり出しましょう。


4.    解決のフェイズ

そして最後のステージでは、「新しい設備を入れたらコストを下げることができるよね」「品質が上がるから、クレームも減るかな」という、得意先にとって現実的な解決策を引き出したいところです。なので、この段階では「新しい設備を入れるとあなたの会社はどうなりますか?」
といったように、得意先が自社のカスタマーサクセスを想像できるようにしていきましょう。


 
◾️ 4つのフェイズでの質問の注意点

1.    状況


次にそれぞれの質問で注意するといいポイントについて説明していきます。まず、事実を聞き出す質問は、できる限り減らしたいところです。この質問をあまり聞いていると「そんなの会社案内やホームページに書いてあるでしょ」と面倒臭いなと思われてしまいます。なので極力、自社で収集しましょう。ホームページに掲載もされていますし、顧客が書いているブログやSNSなどを探して調べておいて、雑談の合間に聞いてみるくらいでいいかと思います。


2.    問題

次の問題のフェイズでは、潜在ニーズを「お客様から引き出す」質問をしていきたいところです。なので「売り上げに困っていませんか?」「今の設備大丈夫ですか?」と顧客が今不満に思っていそうな点を聞き出す質問をしましょう。ここは先程のレクチャーのカスタマージャーニーでやったことを使っていけばいいですよね。

 
3.    示唆

次の示唆の質問では、顧客がもっているぼんやりとした潜在ニーズを顕在化していくための質問をし

4.    解決 

そして、解決策の質問では、得意先が「そうだな、設備を新しくすると効率が上がって利益も改善できるな」と自ら顧客のニーズが顕在化されたことを顧客自ら口にするような質問をしようと言っています。
 
この段階で、顧客が「設備を入れることが売り上げ増につながるよね」と語る前に、もしあなたが「うちの設備を入れませんか?売り上げアップにつながりますよ」と自分で言ったら、多くの顧客は「そうだな。ちょっと検討してみますね」と見積もりに走ったりするでしょう。
ここでは、はやる気持ちを抑えて、顧客に気づかせ、語らせることが大事なのです。

◾️ SPIN営業術を実務で活かすには:仮説と質問を見える化しよう

この考え方を営業で活かすためには、各フェイズでの想定質問と、期待する顧客からの回答を見える化することが重要です。

先程の4つの質問に関して、棚卸しをしていきましょう。
とはいうものの、いきなり4種類の質問を書けと言われても何を書けばいいのかわからない、というのが本音だと思います。ここでは、まず4つの質問に関する、自分の仮説を書き出してみましょう。

この"仮説は、先程のレクチャーでやったカスタマージャーニーを元にして、
得意先がどんな悩み、妥協点をもっているのか、その問題を解決するのに何wするべきなのか、を書き出してみましょう。すなわち、各フェイズでの顧客の望みというイメージです。その顧客の望みを引き出せる質問を、"得意先への質問"の欄に書き出していきましょう。


◾️  SPIN営業術を成功に導くには

法人営業では特に、大型の商談がなかなか決まらないとか、ぎりぎりでライバルに取られてしまう、という問題も出てきます。

この考え方を実務で活かすには、自分ごとにすることが必要です。このワークをやることで、自社の営業の活動が、顧客ニーズをあぶり出せているか、ということをチェックしてみましょう。また、各フェイズで仮説を立てられているか?ということや、最後の解決策、や顕在ニーズをお客様に語らせているか?自分で説明していないかを再確認してみましょう。

この記事は、以下の動画でも詳しく説明しています:

執筆者

マーケティングアイズ株式会社 代表取締役 理央 周(りおう めぐる)

石油会社、家電メーカー、大型車両メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、法人営業にマーケティングを注入する社員研修を提供。 2013年より2023年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で23冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典 

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