成功循環モデルで法人営業組織を活性化させるには?
◾️ 【営業リーダー必見!】成功循環モデルとは?
「売上目標を達成できない」という問題は、営業リーダーについて回ります。
背景には、営業スキルや顧客アプローチの問題に加えて、営業組織のチームマネジメントの問題があります。この記事では営業チームのマネジメントを改善するための"営業の成功循環モデル"について解説します。
多くの営業組織では、トップセールスマンと平均的なセールスマンの間に、売上高で何倍もの差があるという結果も出ています。営業の成果が属人的になりがちで、成功事例の再現性が低いことがあげられます。結果として、優秀な営業マンが部下に自分のノウハウを教えることができず、組織全体の底上げができていないのです。
◾️ 営業組織はなぜ、属人的になるのか?
なぜ、営業組織は属人的になるのでしょうか?
また、売上を達成できるスーパー営業であればあるほど、チームのマネジメントに悩む傾向もあります。
その最大の理由は、営業のスキルとマネジメントのスキルはまったく違うからです。
1) トップセールスマン固有の成功体験
トップセールスマンの成功体験は、顧客との関係性の作り方とか、本音を引き出す力など、その人固有の能力によるものです。これを、他のメンバーが再現できることが難しいこと、効果的に共有・伝達することが難しいのです。
2)個性より自分のやり方を重視
また、マネージャーの多くは部下の個性を伸ばすよりというよりも、自分のやり方を押し付けてしまう傾向にあります。なぜなら、自分もそのように教えられてきたからです。得意分野も、顧客もマネージャーと違うために、教えてもらった部下がそのやり方でやっても通用しません。そこで、部下のモチベーションが下がるケースも多いのです。
◾️ 営業チームのやる気を引き出す成功循環モデル
部下の育成、チームの活性化に最も重要なのは「やる気」を引き出すことです。やり気に満ちたチームを作るには、チーム全体で成功と失敗の体験を共有し、学び、成長していくける環境が不可欠です。
この課題を解決する鍵になるのが、MITのダニエル・キム教授が提唱した「成功循環モデル」です。成功循環モデルは組織が持続的に成果を出し続けるための要素とプロセスを示したもので、以下の4つの要素で構成されています。
1. 関係の質: チームメンバー間の信頼、尊敬、協力といった関係性
2. 思考の質: ポジティブな思考、創造性、問題解決能力
3. 行動の質: 主体的な行動、積極性、責任感
4. 結果の質: 業績、成果、目標達成
失敗循環モデル
キム氏は上手くいかない企業の多くは「バッドサイクル」になっている、と言います。
いわゆるこの"失敗循環モデル"では、売上や利益などの結果だけを追い求める、ノルマ達成を強要するなど、「関係の質」を無視したマネジメントが行われます。そうなるとメンバーのモチベーションが下がり「関係性の質」が下がります。
こうなると「どうせやっても上手くいかない」「新しいことをやっても認められなう」と、「思考の質」が下がってきます。
思考の幅が狭くなると「やっても無駄だからやめておこう」と、「行動の質」が下がり、最終的には業績不振という「結果の質」も下がります。
負の連鎖に陥ってしまうのです。
グッドサイクル
一方で成功している企業の多くは「グッドサイクル」になっていると説きます。
まずリーダーが「関係の質」を高めることから始めます。
良好な人間関係ができてくると、自由な意見交換や創造的な議論が生まれ「あ、こういうこと言っても怒られないんだ」「新しいことを認めてくれるんだ」と「思考の質」が高まります。
前向きな思考になれると「ちょっと新しい顧客企業に提案してみよう」「ボクがそれやってみますよ」と「行動の質」が改善されてきます。
結果として「結果の質」、つまり業績向上につながります。そして、成果を出せた実感が、さらに「関係の質」が向上するという好循環が生まれるのです。
この失敗と成功循環モデルとの違いは"起点"にあります。
バッドサイクルに陥るのは、結果のみを重視することにあるのです。
マーケティングや営業では、売上や利益といった結果は重要です。しかし、同じくらい結果に至るまでのプロセスも重要です。なぜなら、プロセスにあるボトルネックを改善することや、経験に頼らない新しいアイディアが結果を大きく左右するからです。
このプロセス改善や新しい発想を生むために、関係、思考、行動の質を上げていこう、という考え方なのです。
成功循環モデルが効果を発揮するのでしょうか?
それは、営業スキルとマネジメントスキルが別物だからです。成功循環モデルを導入することで、個人の経験をチーム全体の知恵に変え、組織全体の営業力を底上げすることが可能になります。
事例:
全国に営業所がある企業の東北支社の営業担当者が大きな契約を獲得したとします。なぜ、とれたのかという理由をチームで分析し、例えば不振の大阪支社の営業が「全部は真似できないけど、アポの取り方は大阪でもできるな」みたいに気づきを得ることができます。
成功事例を共有することで、他のメンバーも同じような成果を上げられる可能性が高まります。逆に、商談がうまくいかなかった場合も、その原因を分析し、教訓として共有することで、同じ失敗を繰り返さないようにすることができます。
そのためには、チーム内での情報共有が不可欠です。お互いの状況を理解し、助け合い、学び合う文化を醸成することが重要です。
◾️ 成功循環モデルの社内導入するには
では、どうやってこの成功循環モデルを社内に導入すればいいのでしょうか?
成功循環モデルを機能させるためには、まずチーム内の「心理的安全性」を高めることが重要です。心理的安全性とは、チームのメンバーが安心して発言し、質問し、挑戦できる環境のことです。失敗を責めるのではなく、学びの機会と捉える文化が不可欠です。
なぜなら、「失敗すると怒られる」と萎縮してしまうと「失敗を恐れて何も行動しない」という状況に陥るからです。この状態が自由な発言をする雰囲気を壊すのです。
失敗を正しく刻むことでしか、人間そしてチームは成長できません。そのためには、
「上手くいかなかったのは失敗じゃないよね」
「そこから学べることって多いよね」
「チームで解決していこうよ」
と、失敗体験を次に活かすことで組織は成長していくのです。
ぬるま湯とは違う「建設的なことなら何を言ってもいい」という文化が、心理的安全性を高めて、自由闊達な議論ができるのです。
◾️ 営業組織に成功循環モデルを導入するステップ
営業組織に成功循環モデルを導入するステップをについて説明します。
現状の把握:
チームの現状、課題、目標を明確にする。 関係性、思考パターン、行動、結果のそれぞれについて分析します。この時に大事なのが、ビジョンの共有です。チーム全体で目指すべき方向性を共有します。これにより、メンバー全員が同じ目標に向かって進むことができます。そして同時に、メンバー個々の目標も設定します。
関係の質の向上:
定期的なミーティングや懇親会などを通じて、コミュニケーションを活性化し、信頼関係を構築する。そこで、成功事例や失敗事例を共有する機会を作ります。この際、批判ではなく建設的なフィードバックを心がけます。1on1ミーティングなどを実施し、個々のメンバーの状況を把握することも効果的です。
事例:
ある企業では、日々の業務の中で、感謝の気持ちを伝えるカードを送り合うことで、ポジティブなコミュニケーションを促進しました。
また、ある企業では、それまで部下への指示にメールだけを使っていましたが、メールを送った後に「メールみた?どう?」と声がけをしました。
成功体験の共有と称賛: 小さな成功体験でも共有し、称賛することで、モチベーションを高める。
思考の質を高める
次に思考の質を上げていきます。
目指すところは、チームが問題の根本原因を深掘りできること、短絡的な解決策に頼らない思考ができるか、というところを目指します。
建設的:
問題点だけでなく、解決策に焦点を当てる。批判的ではなく、前向きな議論ができる。
戦略的:
長期的な視点を持ち、目標達成のための道筋を明確に描ける。
各メンバーも、自分のアイデアに自信を持ち、活発な議論が行われるようになることが理想ですよね。創造的: 新しいアイデアや解決策が次々と生まれる。既存の枠にとらわれず、柔軟な発想ができる。顧客視点: 常に顧客の立場に立って考え、顧客のニーズや課題を深く理解しようとする。
思考の質を上げる:
多様な意見に触れる:
異なるバックグラウンドを持つ人との交流や、異業種交流会への参加などを通じて、多様な視点や考え方を学ぶ。専門書やビジネス書を読むだけでなく、幅広い分野の本を読むことで、知識や教養を深める。
議論ではなく対話:
何かを決める会議、ではなく、ブレインストーミング: チームで自由にアイデアを出し合うことで、創造性を刺激する。
批判的思考のトレーニング:
物事を鵜呑みにせず、多角的に検証する習慣をつける。自分の意見や決定に対して「なぜ」と問いかけられるか
顧客の声に耳を傾ける:
顧客アンケートやインタビューなどを通じて、顧客のニーズや不満を直接聞く。顧客体験の疑似体験: 顧客の立場になってサービスを利用してみるなど、顧客視点を養う。
このときのチェックするポイントは、会議でどんな発言が出るのか?建設的か、客観的か、戦略的かなどをチェックするなどです。
提案資料の内容も思考の質を図れます。独創的か、顧客視点に立っているかなどをチェックするのです。問題解決のアプローチが論理的か、多角的な視点を持っているかなどをチェックするのも有効です。
行動の質を上げる
思考の質が上がってきたら、次は行動の質を上げていきます。
以下のような理想の状態を目指します。
- 主体的: 指示待ちではなく、自ら課題を見つけて行動する。
- 積極的: 新しいことに挑戦することを恐れず、積極的に行動する。
- 責任感がある: 自分の役割をしっかりと認識し、責任を持って行動する。
- 協力的: チームメンバーと協力し、目標達成のために貢献する。
- 継続的: 目標達成まで諦めずに努力し続ける。
- 迅速: 状況に合わせて、素早く適切な行動をとる。
この段階では、ミスを許容する文化ができているかどうかも大事です
行動の質を上げるためには、以下のアプローチが効果的です。
具体的にみていく:
SMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)と呼ばれるな目標を設定し、行動を具体的にする。
タイムマネジメント:
優先順位をつけ、効率的に時間を使えているかをチェックする。
フィードバック:
上司や同僚からのフィードバックを受け、行動を改善する。小さな目標でもいいので、達成することで、自信を高め、積極的に行動できるようになる。などをチェックしていきます。
チェックする方法の事例をいかに挙げておきます。
- 行動記録: 日々の行動を記録し、振り返る。
- 目標達成状況: 設定した目標に対して、どの程度達成できているかをチェックする。
- 周囲からの評価: 上司や同僚からの評価を通じて、行動に関するフィードバックを得る。
- 自己評価: 自身の行動を客観的に評価し、改善点を見つける。
- 行動観察: 会議やプレゼンテーションなどでの行動を観察し、改善点を見つける。
◾️ 成功循環モデルを成功に導く成長支援の仕組み化
チームリーダーにとって、メンバーの成長支援をする"仕組み構築"も重要です。
思考の質と行動の質は密接に関係しています。質の高い思考は、質の高い行動につながり、質の高い行動は、質の高い結果を生み出します。逆に、思考の質が低いと、行動の質も低下し、良い結果につながりません。
例えば、顧客視点の思考(思考の質)が欠けていると、顧客のニーズに合わない提案(行動の質)をしてしまい、契約を獲得できない(結果の質)という悪循環に陥ります。
成功循環モデルを効果的に機能させるためには、関係の質を高めるだけでなく、思考の質と行動の質の両方を向上させることが重要です。上記の向上方法とチェック方法を参考に、チーム全体で取り組むことで、組織全体のパフォーマンスを向上させることができるでしょう。
このようなワークシートを各フェイズで作り、チェックしながら進捗を"見える化"することが効果的です。ワークシート欲しい方は弊社問い合わせフォームからリクエストしていただければパワーポイントのデータでブランクのものを差し上げます。
実際の営業活動での「成功循環モデルの回し方」については以下の記事で説明していますので、参考にしてください。
→ 成功循環モデルの回し方:法人営業チームで成果を出せる脱属人の仕組み化
◾️ まとめ
成功循環モデルは、営業チームの成果を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。営業組織を活性化することによって以下の効果が得られます。
- 営業が属人的なものから、再現性のあるチーム文化に変わる
- 心理的安全性の向上により、チーム全体が学び、成長する環境が生まれる
- 成功体験と失敗体験を共有することで、持続的な改善が可能になる
今こそ、マーケティング志向の成功循環モデルを営業組織に導入し、チーム全体で大きな成果を手に入れる時なのです。
執筆者
石油会社、家電メーカー、大型車両メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、法人営業にマーケティングを注入する社員研修を提供。 2013年より2024年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で23冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典
営業の成功循環モデルについて説明してほしい、営業を活性化したい、属人営業から抜け出したい、など、
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