営業戦略は戦略営業と何が違うのか?マーケティング志向で考える営業の仕組み化
営業組織を"仕組み化"して、属人的な営業から抜け出し、チームとして成果を上げるには、戦略を立てて営業することが大事です。
そして、会社全体を考えて立てる"営業戦略"と、それに基づいて個々の営業が考えて動く"戦略営業"の両方が必要なのです。
この営業戦略と戦略営業、どちらも似ているようでいて実は大きく違います。
この記事では、
- 営業戦略と戦略営業のそれぞれの定義
- 営業戦略と戦略営業の違い
- 営業活動のどこにマーケティング視点を入れるのか?
- 戦略営業をするには何が大事か?
について説明します。
◾️ 【経営者必見!】営業を仕組み化するための営業戦略と戦略営業とは?
まずは、営業戦略と戦略営業にについて、それぞれを定義していきます。
営業戦略とは「企業として営業活動での目標を達成するための長期的な方針と具体的な方向性」を指します。
競争優位に立てる差別化ポイントは何か?ターゲットにする市場を決めること、そして市場にいる未顧客に同アプローチをするか、既存顧客に期待以上のサービスを提供するには何をすればいいのか、といった大枠の方向性を指します。ここでは、マーケティング的なアプローチ「何を、誰に、どうやって」という戦略を決めていくことになります。
全社的な目線で市場を捉えるか、営業に関わる人材や資金といったリソースをどう配分するかなど、会社のための戦略なので社長や営業本部長が中心になって立案していきます。
一方、戦略営業とは「営業戦略を1人1人の営業が、顧客や未顧客にマッチした方針を立てて具体的なアクションに落とし込んでアプローチしていくこと」を指します。
個々の顧客がどんなニーズを持っているのか、顧客ごとに提案をどうカスタマイズするか、という顧客ごとに作戦を立て具体的に進めることを指します。
営業をしていると、どうしても顧客ごとに「どう売るか」を考えることになり、セールスのスキルとテクニックに焦点を当てがちです。しかし、戦略営業は、営業が顧客と効果的な商談できることを目指すので、分析や仮説といった事前準備に焦点を当てます。このプロセスに"マーケティングの考え方"を入れることで効果的な商談を組み立てられるのです。
営業戦略と戦略営業を、大海原に出る航海に例えてみましょう
営業戦略なしで営業することは「船出する船に羅針盤がない」ようなものです。
目的地だけ決めて船出したこの船は、波に任せてどこかに行き着くかもわからないし、
目的地にたどり着く可能性はとても低く、途中で迷ったり、危険な海域に入り込んだりするリスクが高まります。
同じように、営業戦略がないビジネスも目標の数字だけあって、方向性が不明確なため、時間や労力の無駄遣いになりチャンスの見逃しや失敗のリスクも高まります。
一方で、戦略営業がない営業活動は、「良い羅針盤を持っているが、それを見ずに航海する船長」のようなものです。
目的地に向かうための道具は与えられていますが、羅針盤を見ずに直感や勘だけで航海を続けると、たとえ正しい方向性が手元にあっても、道を誤ったり、効率が悪いルートを選んだりする可能性があります。
同じ様に、戦略営業なしで営業すると、会社としては市場や顧客のニーズが分かっていても、その情報を基にしたお客様ごとの具体的なアクションを取れずに、経験に頼った営業をして、結果的に売れるチャンスを逃したり、行く必要のない得意先を訪問したりして、効率も落ちます。
目標を達成するためには、正しい方向性を示す「羅針盤」と、それを実際に使って進む「船長」の役割もどちらも大事なのです
◾️ 法人営業の組織での具体的な戦略営業
営業活動での成約率を上げるには、営業部室を出る前の準備の質が、成否の鍵を握ります。この事前順の段階から"戦略営業"は始まっているのです。
成果を出せる戦略営業をするには、営業が何をすればいいのか、営業プロセスの準備にどんなマーケティングの考え方を入れるかを、ステップごとに説明していきます。
顧客のビジネスを理解する
顧客企業の事業内容、業界の状況、競合との関係から、顧客の抱える問題、課題感をあぶり出します。マーケティングの各種分析のやり方を参考に、顧客の求めている価値は何か?を探り出します。
この段階でのポイントは、顧客の市場でのポジショニングと、競争優位に立てているか、という点を押さえておくことです。
ニーズに合わせカスタマイズされたソリューション考案
この段階では、顧客にヒアリングするだけではなく、仮説を立てて今顧客が気づいていないけれど教えてもらったら嬉しいこと潜在的なニーズを探ります。ここではS P I N営業術やマーケティングの仮説の立て方が効果的です。
定期的にコミュニケーションをとる
この段階の目的は、訪問や商談ではありません。訪問と訪問の合間に、メールや動画、S N Sなどで発信するなど有益な情報を提供することで、顧客にとっての自社の価値を高めていくことを目指します。
顧客情報を蓄積・管理する
コミュニケーションを継続的に取りつつ、顧客との取引履歴とか契約の状態などを蓄積し、以降の営業活動に活かします。顧客内部の、担当者の価値観や、判断基準などの質的な情報は自社にとって資産になります。これを集め社内で共有することが本来のC R M(=顧客関係性のマネジメント)です
成果の測定とフィードバックの活用
提供の効果を定期的に評価し、顧客からのフィードバックを収集します。成果とフィードバックをもとに、サービスの改善点を見つけ出し、顧客満足度を高めるための施策も考えていきます
◾️ 営業戦略立案と戦略営業への落とし込みの事例〜製造業のケーススタディ
企業として考える営業戦略の立案ステップを、製造業の事例で考えてみましょう。建築部品の製造業での営業戦略の立案と、個々の営業マンが戦略営業を実行するプロセスでそれぞれが何をすべきかを説明します。
1)営業戦略の立案
1. 市場分析
建築業界のトレンド、需要の変動、競合分析を行います。新しい建築技術や環境に優しい素材への関心の高まりなど、市場の動向を捉えます。
2. ターゲット顧客の特定
主に取引を目指す顧客層を定めます。例えば、商業施設を手掛ける大手建設会社や、環境に配慮した住宅を建てる中小建築事務所など。
3. 競合との差別化
自社の建築部品が競合他社と比べてどのような利点を持っているかを明確にします。例えば、耐久性、環境配慮、コストパフォーマンスなど。
4. 販売目標と戦略
年間の販売目標を設定し、それを達成するための具体的な戦略を立案します。これには、プロモーション活動、価格設定、販売チャネルの選定などが含まれます。
営業戦略は会社の何を誰にどうやって、すなわち会社のマーケティング戦略と言えます。
営業戦略をベースにして、営業マンたちがそれ沿いの戦略営業を立てていきます。
2) 戦略営業のプロセス
1. まずはお客様ニーズを深掘りします
建築プロジェクトに特定の要件はあるかとか、コスト削減に圧力がかかっていないかとかです。
2. 次にニーズに合わせた提案にカスタマイズしていきます
この時のポイントは自社製品の売り込みじゃなくて、あなたの会社にこう役立つ、という提案にしていくことです。
3. つぎに、商談と商談の合間のコミュニケーションです。
製品デモンストレーションの動画配信とか、品質について書いた白書なんかを定期的に送るとなどを実施します。
営業戦略では、市場全体を見渡し、企業としてどのように競争優位を築くかを考えます。
一方、営業マンが戦略営業をやる時は、営業戦略を基に、個々の顧客に対して具体的なアクションを取り、実際に成果を出すことに集中します。
一覧表を作ったので、これも参考にしてください。
営業戦略と戦略営業について、カテゴリーごとの比較をまとめます。
定義:
営業戦略は、長期的な戦略と計画の立案、戦略営業はそれに基づいて、営業が個々の顧客へ戦略的なアプローチをすることです。
焦点:
営業戦略は、市場、顧客、競合など市場全体に焦点を当てますが、戦略営業では、顧客ニーズに焦点を当てます。伴って、顧客ごとにカスタマイズした提案を構築します。
目的:
営業戦略の目的は、目標達成のための方向性を決めることですが、戦略営業では、顧客課題へのソリューションを提供することによる成約促進を目指します。
活動:
営業戦略の主な活動は、分析、立案、目標設定、資源配分など会社全体を俯瞰して行うことになり、戦略営業では、具体的な提案作成、商談、フォローなどの戦術に近い施策を考えていきます。
成果の測定:
営業戦略の効果を測定する指標は、主に市場シェア、売上高、利益率などマクロ的な視点での成果になり、戦略営業では、個々の顧客に対する成約率、顧客満足度、リピート率になります。
策定者:
営業戦略は企業全体の方針を決めることなので、経営層、マーケ・戦略部門が策定します。一方で、戦略営業は、営業担当者が個々に策定し、営業部門のリーダーが指導することになります。
計画期間:
営業戦略の計画は、数ヶ月から数年にわたる中長期のスパンになり、戦略営業は対照的に、日々から数ヶ月の短中期になります。
(ご希望の方にこの一覧表を差し上げますので、文末の弊社問い合わせフォームから一覧表希望と記載の上申込ください)
あなたの会社でも、営業戦略と戦略営業を混同せず、使い分けて成果を出せる仕組み化された営業組織にしていってください。
執筆者
石油会社、家電メーカー、大型車両メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、法人営業にマーケティングを注入する社員研修を提供。 2013年より2023年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で23冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典
属人的な営業組織を変えたい、営業を仕組み化したい、値引きに頼らない営業をしたい、など、
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