STP分析とは?目的、やり方、活用方法とAmazonの事例で解説
STP分析とは、セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の3つのステップで市場を分析し、戦略を立てるマーケティングのフレームワークです。
目的は、顧客のニーズを理解して、自社の強みを最大限に活かせるターゲット層を特定しながら、優位な立ち位置を探すことで、長く差別化できることを目指します。
この記事では、STP分析で「誰に(ターゲット)、何を(差別化された製品・サービス)、どうやって(コミュニケーション)買ってもらうか」という戦略立案のヒントを得る方法を説明します。
- 目次
◾️ 【マーケティング初心者必見!】なぜSTP分析が重要なのか?
まず、なぜSTP分析が有効なのか?を考えてみましょう。
1) 市場を客観的に理解できる
現状を正しく把握すればするほど、次の打ち手も正しく打つことができます。S T P分析で、自社の現状や顧客のニーズ、競合の動向を深く知ることで、自社が今置かれている状況を正しく把握できます。
2) 競合との差別化
顧客から見ると、市場では全て同じに見えています。競合他社との差別化要因を明確にし、自社だけの強みをターゲット層にアピールすることで、市場での優位性を長く保てます。
3) 効果的なマーケティング戦略の立案
S T P分析で特定したターゲット顧客に向けて、効果的なコミュニケーションを取ることで、広告や営業活動の投資対効果を上げることができるようになります。
このように、STP分析はマーケティング戦略の立案の基礎になり、成功するために不可欠なツールなのです。
◾️ セグメンテーションのステップ=細分化
S T P分析のそれぞれの内容と分析のステップを順に説明します。
セグメンテーションとは、市場を細かく分割し、自社の商品やサービスが最も効果的にアピールできる顧客層を特定することです。
セグメンテーションでは、様々な観点から顧客を分類します。大きく4つのカテゴリーで細分化をしていきます。以下のように細分化した1つ1つの項目、例えば年齢、とか、性別、を"セグメント"と呼びます。セグメントが切り口、セグメント分けるすることをセグメンテーションと呼びます。
1)デモグラフィック=属性
以下のような、人口統計的な要素での切り分けです。
- 年齢: 10代、20代、30代など
- 性別: 男性、女性、その他など
- 学歴: 大卒、大学院卒など
- 職業: 会社員、自営業、学生など
- 収入: 高所得層、中所得層、低所得層など
- 世帯構成: 独身、夫婦のみ、子供ありなど
セグメンテーションのやり方は、過去のデータまたは自社製品の特性から推測していきます。例えば、新しくコスメ商品を開発するのであれば、20代のファッション好きな女性向けにする、とか、高級ブランドの腕時計を販売するサイトを作るのであれば、可処分所得の高い男性ミドルエイジ、といった具合です。
BtoBのビジネスでは、企業規模、業界、業種などになります。
2) ジオグラフィック=地域
以下のような地理的要素での切り分けです。
- 地域: 都市部、郊外、地方
- 都市の規模:大都市、中規模都市
- 住まいや勤務先:都心、郊外、駅近く
BtoBのビジネスでは、本社所在地、意思決定をする場所などになります。
3) サイコグラフィックス=心理的な要因
趣味や興味、信念、何を大事にするかという価値観や、普段何をしているのかというライフスタイルなどです。
- 価値観: 環境意識が高い、健康志向、体験重視、価格志向など
- ライフスタイル: アウトドア派、インドア派、トレンドに敏感など
- 趣味: スポーツ、読書、音楽鑑賞、ファッション好きなど
エコ製品を販売するのであれば、環境意識の高い品質重視の人をターゲットに、オーガニック食品を販売するのであれば、健康志向が料理が趣味の人をターゲットに、という具合です。
BtoBのビジネスでは、品質の良さ、価格の安さ、信頼度合いなど、何を基準に意思決定をするか?になります。
4) ビヘイビア=行動
情報の探し方、購入頻度、ブランドロイヤルティ、購入理由、使用状況など、顧客が購買に至るまでにどのような行動を取るか、という切り口です。
- 購買行動: 情報の探し方、使う金額、ブランド忠誠度
- 利用頻度: サイトへの訪問が高頻度か低頻度、製品を使う頻度が多いか少ないか
- メディア利用: テレビ、インターネット、SNS、リアル店舗など
ECサイトで新商品を販売開始するのであれば、高頻度でオンラインショッピングをする人をターゲットに、ロイヤルカスタマー向けの特典を提供するのであれば、特定のブランドの製品を繰り返し購入する人をターゲットにする、といった具合です。
これは、BtoBビジネスでも同じです。
以下の一覧表は、セグメンテーションの事例です。BtoCとBtoBの両方を記載してあるので参考にしてください。
◾️ セグメンテーションのステップ=細分化
セグメンテーションは以下のステップで行います。
- データ収集: 顧客データ、市場調査データなどを収集します。
- セグメント変数の選択: 上記の分類の中から、自社の商品やサービスにとって重要な変数をいくつか選びます。
- セグメントの作成: 選んだ変数に基づいて、顧客データをグループ化し、セグメントを作成します。
- セグメントの評価: 各セグメントの規模、成長性、収益性などを評価します。
- ターゲットセグメントの選定: 評価結果に基づいて、自社が最も注力するターゲットセグメントを選びます。
セグメンテーションをするコツがいくつかあります。まず、セグメント=切り口が多すぎると管理が難しくなるため、絞り込むことが重要です。また、セグメントは固定的なものではなく、市場の変化に合わせて見直す必要があります。
セグメンテーションは、顧客を深く理解し、効果的なマーケティング戦略を立てるために不可欠な手法です。様々な角度から顧客を分析し、自社の商品やサービスに最も適したターゲット顧客を特定することで、より高いマーケティング効果が期待できます。
◾️ S T P分析 ②ターゲティング=的を絞る
セグメンテーションで特定した複数のセグメントの中から、自社が最も注力するセグメントを複数選び組み合わせて"ターゲット層"とします。
ここで重要なことは、ターゲットとするセグメントを選ぶ際に、市場規模、成長性、自社の強みとの適合性などチャンスになる要因を考慮する点です。具体的には以下のステップで行います。
- 各セグメントの市場規模や成長性を分析する
- 自社の強みと各セグメントのニーズとのマッチングを検討する
- どのセグメントを自社のターゲット層に入れていくのか、を決定する
このセグメンテーションからターゲット設定をするステップを、化粧品の事例で説明します。
化粧品業界で20代女性をターゲットとする場合、非常に多くのセグメンテーション方法が考えられます。単に「20代女性」と一括りにするのではなく、より細かくセグメントすることで、より効果的なマーケティング戦略を立てることを目指します。まずは、先ほどの4つのカテゴリーでのセグメンテーションのやり方を説明します。
1. デモグラフィックセグメンテーション
- 年齢: 20代前半、後半
- 居住地: 都市部、郊外
- 学歴: 大卒、短大卒、専門学校卒
- 職業: 学生、OL、フリーターなど
- 収入: 高収入、中収入、低収入
2. ジオグラフィックセグメンテーション
住まいまたは勤務の地域: 都心部、地方都市、郊外
3. 心理的セグメンテーション(価値観、ライフスタイル)
- 価値観: 自然志向、トレンド志向、コスパ重視など
- ライフスタイル: アクティブ、インドア、美容好きなど
- 趣味: コスメ収集、旅行、SNSなど
4. 行動セグメンテーション
- 購買行動: 購入頻度、購入金額、ブランド忠誠度
- メディア利用: SNS、美容系サイト、雑誌など
- オンライン行動: コスメレビューサイトでの活動、美容系インフルエンサーのフォローなど
上記のセグメンテーションの中から、自社の製品やサービスに最も関連性の高いものを選び、組み合わせることで、より具体的なターゲット像を描き出すことができます。
以下に、2種類のコスメブランドの市場導入の事例で考えていきます。
例1:オーガニックコスメブランドの場合
ターゲット層1: 環境意識が高く、自然派志向の20代前半の女性
- サイコグラフィック:自然志向、健康志向
- デモグラフィック:20代前半、都市部在住
- 行動: SNSで情報を集め、オーガニック製品に強い関心を抱いている
この場合、以下のような攻略法が有効と考えられます。
InstagramなどSNS広告で、オーガニックコスメのメリットや製品の魅力を発信する。自然派なイメージを持つインフルエンサーに製品をPRしてもらうなど、インフルエンサーマーケティングも有効です。オーガニック食材を使った料理教室やヨガイベントを開催し、ブランド体験を提供することも効果的でしょう。
例2:プチプラコスメブランドの場合
ターゲット層2: コスパを重視し、トレンドに敏感な20代後半のOL
- サイコグラフィック:トレンド志向、コスパ重視
- デモグラフィック:20代後半、都市部在住
- 行動:ドラッグストアでの購入頻度が高い
- 特徴: コスメレビューサイトをよくチェックし、新しいコスメを試すのが好き。
この場合、同じSNSでもTikTokやInstagramで、手軽に試せるプチプラコスメのメイク動画を配信するとか、人気のインフルエンサーとコラボレーションで限定商品を開発するなどが効果的です。価格にも敏感なので、ポイントプログラム:など繰り返し購入してくれる顧客への特典を提供することも有効です。
20代女性をターゲットとする場合、単に年齢だけで区切るのではなく、様々な角度からセグメンテーションを行うことが重要です。それぞれのセグメントに対して、最適なマーケティング戦略を立てることで、より効果的に顧客にアプローチすることができます。
ターゲット層を決めるときには、以下のようなコツがあります。
まず優先すべきは、自社の製品・サービスが最もアピールできるターゲットは誰かという視点でセグメントを組み合わせることです。同時に、競合他社がターゲットにしていない層はいないかをチェックして差別化を図ることです。また、20代女性の美容に対する意識や行動はどのように変化しているかというような市場のトレンドのチェックも定期的に行いましょう。
また、上記の事例では1種類のターゲット層を設定しましたが、新規事業立ち上げや新製品の市場導入の際には、複数のターゲット層を設定してテストしていくことが一般的です。
これらの点を踏まえ、最適なターゲットを絞り込み、効果的なマーケティング活動を行っていきます。
◾️ S T P分析 ③ポジショニング=立ち位置
ポジショニングは、ターゲット顧客に対して、自社の商品やサービスが競合他社と比べてどのような位置づけにあるのかを明確にし、差別化を図ることです。ポジショニングマップを作成することで、自社の位置づけを見える化した上で、現状が正しいかどうか、他にチャンスがあるかどうかを見極めていきます。
具体的には以下のようなステップを踏んでポジショニングマップを作成し、現状で差別化できているか、他にも市場機会があるか、を分析していきます。
- ターゲット層と競合する他社の分析を行う〜S W O T分析が有効です。
- ポジショニングマップを作成する
- 自社だけが提供できるバリュープロポジションを明確にする
- その上で現状の位置にとどまるべきなのかを決める
◾️ ポジショニングマップの作り方
ポジショニングマップの作り方を以下の通り説明します。
軸を設定する:
顧客にとって重要な要素を2つ選び、縦軸と横軸に設定します。次に、軸の両極に対照的な顧客の価値観をおきます。この時に重要なことは、対極の意味です。価格の高い vs 低いとか、品質が高い vs 低い、利便性が高い vs 低いなど同じカテゴリーの大小や高低で決めるのではありません。価格が高い方が好きな人や、品質が悪いことを望む人はいないからです。
価格を重視する対極にあるのはどんな人か?という仮説を立てるのです。例えば、コスメで言えば、プチプラ好きの対極には、品質重視といった具合です。
自社と競合をプロットする:
そのマップに、自社と市場に存在する主要な競合を軸に基づいて配置します。競合ごとの強みや弱みを視覚的に把握できるようにします。現状のポジションで自社が提供する価値や強みを考慮し、競合との差別化が可能な位置を見つけます。
価値提案を明確化する:
選んだ位置に基づき、ターゲット顧客に対して伝えるべき独自のメッセージや価値を定義します。
テストと調整:
実際の市場反応を確認し、必要に応じて軸や位置を再調整します。
◾️ ポジショニング~初期のAmazonの事例
ここで、STP分析の具体的な事例として、私が在籍していた初期のAmazonを取り上げてみます。
Amazonは、創業当初、オンライン書店としてスタートしました。しかし、Amazonは、単に本を売るだけではなく創業者のジェフ・ベゾスさんが提唱した「地球上で最もお客様を大切にする企業」というビジョンを掲げ、顧客中心のビジネスモデルを構築しようとしていました。
Amazonでは、ターゲット顧客のセグメントを"本の好きな人"だけでなく、"何でも手軽に購入したい人"という層に広げました。そして、再度セグメンテーションを行い、顧客のニーズを細かく分析したのです。その結果、Amazonは、1クリックで買える仕組み、豊富な品揃え、1時間ごとに更新されるランキング、便利な配送サービスなどを提供することで、競合他社との差別化を図り、ポジショニングを確立したのです。
初期のAmazonの成功は、STP分析を徹底的に行い、顧客のニーズに合わせたビジネスモデルを構築した結果といえます。
◾️ まとめ
STP分析は、顧客を理解し、競合との差別化を図るための基本的なフレームワークです。また、一見複雑そうに思えるかもしれませんが、ステップを踏めば非常に実践しやすいフレームワークです。
セグメンテーションでは市場の多様性を把握し、ターゲティングで適切な顧客を選び、ポジショニングで自社の強みを最大限に発揮することが重要です。
適切に活用することで、無駄なリソースを削減でき、効率的にターゲット顧客にアプローチすることが可能です。そして何より、マーケティング活動で重要な差別化できる優位な立場を築くことができます。
自社の現状を今一度確かめるためにも、S T P分析を取り入れてみてください。
執筆者
石油会社、家電メーカー、大型車両メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、法人営業にマーケティングを注入する社員研修を提供。 2013年より2023年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で23冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典
差別化して価格競争から抜け出したい、新規事業を立ち上げたい、新しいビジネスを軌道に乗せたい、など、
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