SDVとは?新しい価値提案ができる企業になるには?IoTで企業はどう変わるべきか〜CASEとの違いを事例で解説

◾️ SDV Software Defines Vehicleとは?
SDV は、Software Defines Vehicle のことで、日本語で直訳すると「ソフトウェアが定義する車両」となります。すなわち、ソフトウェアが車両の機能を充実させ"価値"を決定するようになったという概念を表します。
この記事では、SDVがもたらす変化がマーケティングにどのような変化をもたらすのか、そして、ビジネスパーソンとしてこの変化をどう捉えるべきなのか、について説明します。
◾️ SDVがもたらす変化の本質とは?
自動車を取り巻く環境において、以下の要素が大きな変化をもたらしています。
- コネクテッド機能(Connected):
車両がインターネットに接続され、様々なサービスを利用できる機能 - 自動運転機能(Autonomous/Automated):
ドライバーの操作なしで車両が自動的に走行する機能 - シェアリング(Shared):
車両を共有することで所有ではなく使用という概念に移行すること - 電動化(Electric):
ガソリン車ではなく、電気で動く車
このCASEと呼ばれる大枠の概念の中で、ハードウェアとソフトウェアに特化した概念がSDVです。
車両本体、カーナビ、ドライブレコーダー、ステレオなどのハードウェアと、搭載されている、GPS、通信などの車載情報システムの機能を備えたソフトウェアを指すのです。そしてソフトウェアの多くがインターネットと繋がっているIoTになります。
マーケティング的に考えると、このSDVの浸透の本質は
「自動車が単なるハードウェアからソフトウェアに変わる」
ことにあります。
この変化は、電話機が固定電話からスマートフォンに置き換わったのと似ています。
固定電話は、声を伝えることに特化しており、その機能は作った時からに決定され、使用者によるカスタマイズやアップデートはほとんど不可能です。同じように、自動車においても、エンジン性能やデザインなどが製造段階で決定され、後から大きく変更することは困難です。
スマートフォンは基本的な通話機能に加え、アプリでの追加機能を持ち、定期的なソフトウェアアップデートで新しい機能が追加されたり、性能が改善されたりします。SDVも、ソフトウェアを通じて車両の機能をカスタマイズしたり、新たな技術が登場するたびにアップデートして性能を向上させたりすることが可能です。
SDVによって自動車は単なる移動手段を超えて、連続的なアップデートが可能なスマートデバイスへと進化しています。例えば、運転支援システムの改善、カーナビの地図ソフトウェアの更新、音楽などのエンターテインメントシステムのアップグレード、新しい安全機能の追加などが、ソフトウェアの更新だけで実現可能になります。これにより、企業は自動車を使っている間中、顧客に最新の技術を提供し続けることができるようになるのです。
◾️ SDVとIoTをマーケティングに活かすには
これらの要素を組み合わせて今まで実現できなかったような、革新的な機能やサービスを提供することができるようになりました。以下に具体的な事例を挙げていきます。
顧客中心の体験価値:
車がソフトウェア中心になることで、顧客体験のカスタマイズが可能になります。マーケターは、顧客のニーズや好みを詳細に理解し、それに合わせて車の機能をカスタマイズする提案ができるようになります。
データの活用:
SDVが生成する多くのデータを活用して、顧客の使用パターンを分析し、マーケティング戦略や商品開発に活かすことができます。たとえば、どのような機能がよく使用されているか、または使用されていないかのデータから、顧客に合わせたアップセルやクロスセルの機会を見つけることができます。
ドライバーの挙動や好みを学習し、それに応じてシートの位置、空調の温度、音楽の選択などを自動で調整します。例えば、特定のドライバーが車に乗ると、その人の好みのエアコン設定やプレイリストが自動的に起動することができます。
まさに、AmazonやNetflixがやっているリコメンデーションですね。
継続的な関係構築:
インターネットを通じてソフトウェアが常にアップデートされることで、顧客との関係が単発の車両購入から継続的な関係へと変化します。サブスクリプションモデルや定期的なアップデートサービスを提供することで、長期的な顧客エンゲージメントを確保する戦略が取れるようになるのです。
◾️ SDVが可能にする新しい価値提案
SDVを含むIoTが、マーケティングにもたらす最大の影響は、データ取得による顧客行動の見える化です。
すなわち、「顧客が自社製品をどのように使っているのか」がわかることにあります。
こうなると顧客が想定外の使い方をした時にも、わかるということになります。
古くは、ポケベルを中高生たちがコミュニケーションをとるために使い始めたこと、また、コロナ禍の時にマスクを作るためにミシンが売れ始めたことなどがあります。
このように、顧客が企業の想定外の使い方をすることを"ユーザー・イノベーション"と呼びます。
この時にこそ、市場機会が生まれるのです。この変化を素早く察知して打ち手を打てば、ライバルに先駆けて市場に打ち出せるからです。
今までは企業が製品の使い方を決めて出すことが普通でしたが、「ユーザー=お客様」が使い方を決めるユーザー・イノベーションの時代なのです。
この顧客共創型のマーケティングについては以下の記事で説明をしていますので参考にしてください。
→ 共創型マーケティングとは?顧客とともにブランド熱量を上げるAI時代の戦略と事例
SDVにより、安全性、利便性、エンターテインメントなど、さまざまな新しい価値を提供できるようになります。これらの特徴を前面に出し、従来の車とは異なる新しい使用シナリオを顧客に提案することが可能になるのです。
映画、音楽、ゲームなどのエンターテイメントコンテンツをリアルタイムで更新し、個々の乗客の娯楽需要に応じて提供することが可能です。また、声でのコマンドやジェスチャーでコントロールできるインターフェイスが提供されることもできるようになるでしょう。
車両の機械的な問題をリアルタイムで監視し、必要なメンテナンスが行えるように事前にドライバーに通知します。これにより、突然の故障を防ぎ、車両の寿命を延ばすことができます。
このように、SDVの普及は自動車業界だけでなく、マーケティングのアプローチにも大きな変革をもたらします。顧客との新しい関係を築き、持続的な価値を提供することが、これからのマーケターに求められるスキルとなるでしょう。
そして最も重要なことは、SDVに代表されるIoTでできる新しい価値提案は、多くの業界にも応用できるという点です。ソフトウェアを中心としたアプローチは、カスタマイズ、データ駆動の意思決定、および顧客体験の向上を通じて、様々な業界に革新をもたらすことができます。
1. 家電産業: スマートホームデバイス
家電製品がソフトウェアを通じて制御され、ユーザーの生活パターンや好みに基づいて自動で最適化されるようになります。例えば、スマートサーモスタットは居住者の日常スケジュールを学習し、エネルギー効率の良い方法で家の温度を調整します。これにより、顧客体験が向上し、エネルギー消費の削減にも寄与します。
2. ヘルスケア産業: ウェアラブルヘルスデバイス
ヘルスケアデバイスが患者の健康状態をリアルタイムでモニタリングし、データをクラウドにアップロードして医師が遠隔で診断を行うことが可能になります。これにより、個々の患者に最適化された医療サービスを提供でき、予防医療の効率も向上します。
3. 金融業界:パーソナライズされた金融アドバイス
金融技術(フィンテック)企業がAIを活用して個人の財務データを分析し、カスタマイズされた投資戦略や貯蓄プランを提案します。これにより顧客一人ひとりのリスク許容度や金融目標に合わせたパーソナライズされたサービスが提供され、顧客の経済的な健全性の向上に貢献します。
これらの事例から見ると、ソフトウェアが中心のアプローチは、顧客の個別のニーズに応じて製品やサービスをカスタマイズし、より豊かなユーザー体験を提供することが可能だということが理解できます。各業界では、このような革新的なアプローチを取り入れることで、サービスの質を向上させ、新しいビジネスモデルを生む可能性が広げられるのです。
◾️ 新しい価値提案ができる企業になるには
SDVのような技術革新と市場の変化に対応できる企業になるには、既存のビジネスモデルを再考し、新しい市場の動向を理解し、変化を機会と捉える必要があります。以下に、そのための具体的な視点と発想を挙げます。
1. 顧客中心の思考になる
製品やサービスを提供する際に、単に製品や機能を売るのではなく、顧客が本当に求める価値は何かを深掘りできる企業文化になる
事例: 顧客のフィードバックを積極的に取り入れ、顧客体験を最優先に考えたプロダクト開発やサービス提供を行う体制にする。ユーザーインタビューやアンケートを通じて、顧客の隠れたニーズを見つけ出し、それに応える製品改善を行うなど。
2. データ駆動型の意思決定
収集したデータを分析して、数字の合間にある隠れた顧客の本音を探り出すことで、より精度の高いビジネス戦略を立案できる体制にする。
事例: 大量のデータから顧客の行動パターンを分析し、新たなビジネスチャンスを発見、効果的なマーケティング戦略を開発する。機械学習を使って顧客の購買予測を行い、ターゲティングを精緻化するなど
3. 持続可能性への取り組み
社会状況や環境への影響を考慮したビジネスプラクティスを採用し、企業の社会的責任を果たすという点を社内に浸透させる
事例: 製品のライフサイクル全体で環境影響を最小限に抑える方法を模索する。再生可能エネルギーの利用、リサイクル可能な材料の使用、またはCO2排出量の削減を通じて、グリーンイノベーションを推進するなど
4. 業界をまたぐ連携
異業種とのコラボレーションや事業提携を通して、新しい技術やアイデアを取り入れ、競争優位を築く体制を作る
事例: 異業種の企業とパートナーシップを組むことで、互いの強みを活かした"今の業界にない"新サービスや製品を開発する。製造業とフィンテック企業とが協力して、支払いプロセスを簡易化し顧客体験を向上させるなど。
5. テクノロジーの最前線に立つ
技術の進展と新しい情報を学び、取り入れ、ビジネスに応用する仕組みを作る。
事例: 最新のテクノロジートレンドに敏感であり、AI、ロボティクス、ブロックチェーンなど、新しい技術を自社の製品やサービスに組み込むことを検討するなど。
これらの視点と発想を持つことで、ビジネスパーソンは変化の速い市場環境に柔軟に対応し、持続可能な成長を遂げることができます。それぞれのポイントが、ビジネスの各段階でどのように活かされるかを理解し、適切に実行に移していくことが重要です。
執筆者
石油会社、家電メーカー、大型車両メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、法人営業にマーケティングを注入する社員研修を提供。 2013年より2023年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で23冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典
新しい価値創造について詳しく話を聞きたい、変化に強い企業になりたい、新しいビジネスを軌道に乗せたい、など、
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