既存顧客の重要性とは?経営者・事業責任者のための顧客戦略

◾️【経営者必見!】なぜ、既存顧客は重要なのか?
- 売上がジリジリ下がってきた
- 会社に利益が残らない
- 今までのお客様が離れていく
という相談をよくいただきます。よくよく話を聞いてみると、新しい顧客を獲得しようとするあまり
「既存顧客へのサービスができていない」ことが原因です。
ビジネスにおいて、新規顧客を獲得することは重要ですが、その前にまず既存顧客、すなわち"お馴染みさん""VIP"にきちんと価値提供ができているかを再度確認してみることが重要なのです。
自社の製品やサービスを信じてくれている既存顧客は、会社にとって最大の資産です。この記事では、既存顧客に十分な価値を提供することで、持続的な成長と市場活性化へと導く方法について深掘りしていきます。
- 目次
◾️ 既存顧客とは?
ドラッカーは著書"マネジメント"の中で「事業の目的は顧客の創造である」と言っています。この言葉には、さまざまな解釈ができますが、私は次のようにとらえています。
企業の目的は、売りたいものを売るのではなく「顧客が欲しい製品やサービス」を提供し「顧客の価値の実現に貢献する」こと。
ひいては、この顧客層の集合体によって"市場"を作り出すことだという意味にとらえているのです。
この顧客とは未顧客ではなく"既存顧客"、すなわち自社の製品やサービスを1度以上購入や契約してくれた人あるいは企業を指します。ドラッカーはこの既存顧客に価値を提供し、リピートしてもらおうと言っているのです。
◾️ 既存顧客が企業にもたらすものは?
この図の左側は、顧客の種類と数を表しています。
- 自社の製品やサービスに潜在的にニーズを感じるであろう層
- より自社の差別化ポイントに響きそうな層
- 初めて購入または契約をした層
- 2度以上購入または契約をした層
- 心理的に愛着を感じてくれている層
中央の黒い線が契約あるいは購入なので、ここから上が既存顧客ということになります。
当然ですが、上に行くほど顧客数は減っていきます。ここでいうリピーターとファンの違いは「数と心のロイヤルティ」の違いです。ファンになってもらえると、リピート購入だけではなく、クチコミなど他社・他者に広めてくれるので、そこからどんどん広がっていきます。
一方で、右側は利益の額を表します。
黒い線より下の、潜在と見込み顧客はまだ自社について知らないので、認知や啓蒙をするおためのマーケティング費用がかかるため、売り上げにも利益にもなりません。したがって、新規顧客が既存顧客になるまでは管理会計上は"赤字"です。
しかし、一度購入や契約をした顧客に次にアプローチをするときに、少なくとも自社のことを教える必要がないため、その分マーケティングコストがかかりません。
一度契約または購入した顧客がリピートしてくれるほど、利益(マージンまたは限界利益)の総額は増えていく、というイメージです。
こう見ると、既存のお客様の大事さがわかりますよね。
◾️ なぜ、新規顧客の獲得に偏ってしまうのか?
冒頭に書いたように、売り上げが落ちてきたりすると、「新規の顧客を取らなきゃだめだ」となりがちです。
多くの企業が新規顧客獲得に力を入れる理由はいくつかありますが、主に次のような点が挙げられます。
1. 成長の象徴と誤解
新規顧客の獲得は、企業の成長と拡大に有効な指標とみなされがちです。市場シェアの拡大や売上の増加といった数値は、外部の投資家や関係者にとって企業が順調に成長している証として認識されることが多いため、社内でも盲信してしまうのです。
2. 短期的な成果への注目
新規を取ることで、短期的に売上や利益が上がるのは事実です。こうなると、株主や経営陣に対する成果報告として、新規顧客の獲得で得られる直接的な効果を示しやすくなるので好まれます。
3. 競争圧力
市場における競争が激しいと、企業は新しい顧客を獲得したくなるものです。競合との差別化やシェア向上を図るため、新規顧客を確保することが重要な戦略だ、と判断しがちです。
4. 成功体験の追求
過去に新規顧客獲得によって大きな成果を上げた企業は、同じ手法や戦略を繰り返し実施することで、再び成功を収めようとします。これが習慣化されると、既存顧客の重要性が見落とされがちになります。
新規顧客ばかりを追いかけることを、宝石の採掘に例えてみます
ある採掘者は、新しい宝石を探すためにいつも新しい土地を求めて旅をしています。彼は新しい場所で宝石を見つけるたびに大喜びして、成功に酔いしれます。
でも、一度掘り当てた宝石の管理や磨き上げをしなかったらどうなるでしょう?見つけた宝石は放置されっぱなし、輝くどころか価値も落ちてしまいます。新規獲得ばかりに目を向けていては、宝石の価値を引き出せません。既存顧客に対する投資とケアが、企業にとって宝石を磨き、その価値を高めることに等しいのです。
短期的な視点に基づいた新規顧客だけに偏ったアプローチをとると、長期的な顧客関係の構築や顧客ロイヤルティの向上といった側面が軽視されがちです。既存顧客がもたらしてくれる価値を最大限に引き出し、維持することは、持続可能な成長と利益向上に不可欠な戦略なのです。
◾️ 新規獲得と既存へのサービスのバランスは?
もちろん、マーケティングの焦点として知名度やリーチの拡大を目指す場合は、新しい顧客層をターゲットに設定し獲得することは必要です。
また、新しい製品やサービスを市場に導入する、あるいは新しい地域や市場セグメントへの進出を図る際にも、新規顧客の獲得は避けて通れないステップです。
では、新規顧客と既存顧客へのサービスのバランスをどうとればいいのでしょうか?
以下に、いくつか戦略の事例を挙げます。
1. 顧客セグメンテーション
顧客を異なるグループに分けて、それぞれのニーズや行動パターンを理解し施策に反映します。新規顧客には魅力的な導入オファーやキャンペーンを、既存顧客にはリピート購入やアップセルを促すカスタマイズされたコミュニケーションを実施する、といった具合です。
2. パーソナライズされたマーケティング
顧客の過去の購買履歴や好みに基づいてパーソナライズされたメッセージやオファーを提供します。新規顧客には製品やサービスの基本情報を、既存顧客にはより深いレベルの情報や関連商品の提案を行います。AIを使うことでより正確で精度の高いパーソナライズ戦略を打つことができます。
パーソナライズ戦略については以下の記事で説明しているので参考にしてください。
クリック→ パーソナライズ戦略とは?〜AI時代のマーケティングコミュニケーション
3. 顧客体験の最適化
全顧客に対して一貫して高品質な体験を提供することで、新規顧客のロイヤリティ構築を促し、既存顧客の満足度を高めます。ウェブサイトのユーザビリティの向上、顧客サービスの質の向上、カスタマージャーニーの各タッチポイントでの体験の改善などが含まれます。
カスタマージャーニーに関しては以下の記事で説明しているので参考にしてください。
クリック→ カスタマージャーニーとは?作り方、ステップ、仮説の立て方、作成のポイントを事例で解説
4. 顧客フィードバックのループを作る
顧客からのフィードバックを積極的に集め、それを製品開発やサービス改善に活用します。既存顧客からの意見は特に価値が高く、新規顧客が抱える可能性のある問題点を未然に解決する手がかりにもなります。
5. ロイヤリティプログラム
顧客ロイヤリティプログラムやリワードシステムを導入して、リピート購入やブランドへの忠誠を促します。新規顧客には参加を促すオファーを、既存顧客には彼らの忠誠心を報酬する特典を提供します。
6. 教育とエンゲージメント
製品やサービスの価値を最大化する方法について顧客を教育することで、新規顧客の初期の関与を深め、既存顧客のエンゲージメントを維持します。ワークショップ、ウェビナー、チュートリアルビデオなど、さまざまな形式で情報を提供できます。
7. クロスセルとアップセル
既存顧客に対して、彼らのニーズに合った追加の製品やサービスを提案することで、より深い関係を築きます。新規顧客が初めて購入した後には、関連商品やサービスの紹介を行い、関係を強化します。
これらの戦略を実施することで、新規顧客の獲得と既存顧客の維持のバランスを取りながら、企業全体の成長と顧客戦略をマッチさせていくことができます。
◾️ 既存顧客と新規顧客のチェックポイント
新規獲得と既存顧客へのサービスのバランスが最適かどうかをチェックするためには、
定量的な指標を数字で見ていくこと
定性的なフィードバック
の両方を用いるアプローチが効果的です。以下に具体的な方法を示します。
数字での指標
1. 顧客獲得コスト(CAC)の計算
新規顧客を獲得するのにかかる平均コストを計算します。高過ぎるCAC(=Customer Acquisition Costの略です) は、新規獲得に過度に資源を割いている可能性があることを示唆しています。
2. 顧客生涯価値(CLV)の評価
既存顧客から得られる平均的な利益(顧客生涯価値=CLV Customer Life -time Value)を計算し、それをCACと比較します。CLVがCACを大きく上回っている場合、既存顧客への投資の方が経済的に合理的であることを示しています。
3. リテンションレート(顧客維持率)の監視
どれだけの顧客が継続して商品やサービスを利用しているかを測定します。低いリテンションレートは、既存顧客へのサービスが十分でない可能性があることを示しています。
4. NPS(ネットプロモータースコア)の利用
顧客がどれだけあなたのビジネスを他人に推奨するかを測定するNPSを用いて、顧客満足度を測ります。高いNPSは既存顧客の高い満足度を、低いNPSはその逆を示しています。
5. リピート購入率の分析
既存顧客によるリピート購入の割合を分析します。高いリピート購入率は、顧客が継続的に価値を感じている証拠です。
質・中身での指標
6. フィードバックと顧客インタビュー
顧客から直接フィードバックを収集し、サービスや製品に関する具体的な感想や改善点を聞きます。特に、新規顧客と既存顧客の両方からの意見を比較することが重要です。
7. セグメント別のパフォーマンス評価
新規顧客と既存顧客のセグメントに分けて、それぞれのパフォーマンスを評価します。セグメント別に成果指標を設定し、期待値に対する実際のパフォーマンスをチェックします。
これらの方法を通じて、新規獲得と既存顧客へのサービス提供のバランスが最適かどうかを定期的に評価し、必要に応じて戦略を調整します。重要なのは、両方のバランスをとりながら長期的なビジネス成長を目指すことです。
これらの指標を顧客セグメント別にチェックし、必要に応じて戦略を調整することが重要です。
◾️ 既存顧客へのサービスを継続するには
既存顧客を重視することは、手法ではなく事業の目的です。
既存顧客へのサービスを社内で一貫して実行するには、まず全社員が顧客中心の文化を理解し、共有することが必要です。
経営層からの明確なコミュニケーションと継続的なトレーニングを通じて、社員が顧客のニーズに敏感になり、それに応えるための行動が自然と取れるようにする必要があります。
そこから、社員が自発的に顧客からのフィードバックを積極的に収集し、それを改善につなげるためのシステムを整えることが、サービス向上の鍵となります。
既存顧客へのサービスの積み重ねは、市場を活性化し社会に貢献するとともに、自社の収益を持続的に向上させる効果も期待できます。この戦略は、企業が長期的な成功を収めるための重要な要素なのです。
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執筆者
石油会社、家電メーカー、大型車両メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、法人営業にマーケティングを注入する社員研修を提供。 2013年より2023年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で23冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典
既存顧客へのサービスを見直したい、社員の育て方について詳しく話を聞いてみたい、ビジネスを軌道に乗せたい、など、
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