サービス業の価格設定とは?無形商材の価値ベースでの値決め:コンサルティング会社の事例で解説

◾️ 【経営者必見!】無形商材の価格設定とは?

価格設定は、マーケティング活動においても重要な要素です。
中でも、コンサルティングやシステムなどのI Tサービス、社員研修などの教育関連のコンテンツ販売など、形のないサービス、無形商材の価格設定が難しいという声をよく聞きます。

この記事では、無形商材の価格設定についてマーケティングの視点、特に顧客目線での価格設定について説明をしていきます。

      目次
  1. ◾️ 【経営者必見!】無形商材の価格設定とは?
  2. ◾️ なぜ無形商材の価格設定は難しいのか?
  3. ◾️ 無形商材の価格設定に必要な方策
  4. ◾️ なぜ、低い価格設定や値引きが悪手なのか?
  5. ◾️ 高く値付けするには何をすればいいのか?
  6. ◾️ 無形商材の付加価値とは?
  7. ◾️ 【事例】価値ベースの価格設定〜コンサルティング会社のケース
  8. ◾️ 顧客視点の価格設定〜まとめ

◾️ なぜ無形商材の価格設定は難しいのか?

なぜ無形商材の価格設定は難しいのでしょうか?顧客の立場から見た5つの要因を挙げていきます。

価値の可視化が困難:

無形商材は実体がないため、顧客にとって価値を直感的に理解することが難しいのです。そのため、提供する価値を明確に説明し、顧客に納得してもらう必要があります。

コスト積み上げの価格設定が適用できない:

無形商材の場合、製造業のような原材料費や製造に関わるコストがないため、かかるコストをベースにして積み上げていく価格設定の方法が適用できません。なので、顧客から見たときに「このサービスならこの辺りの価格」という相場感を持ちづらいのです。代わりに、提供する価値に基づいて価格を決める必要があります。

競合との差別化が難しい:

無形商材を顧客から見ると、類似したサービスが多くあり、その境目や違いがわかりづらいためどれが自社にとって最適なのかの判断が難しくなります。これにより、価格で比較されることが多くなり、適切な価格設定が難しくなるのです。

顧客の期待値と実際の価値のギャップ感:

無形商材は、顧客が購入を決める前の体験がしづらいため、期待するサービスの内容と、実際に提供する価値にギャップが生じる場合があります。このギャップを埋められる購入前の仕組みと、価格設定が必要となります。

価値が顧客の主観で決められる:

無形商材に価値があるかどうかは、顧客企業が主観的に判断します。例えば、コンサルティングサービスの価値は、企業の規模、業界、直面している問題によって異なるため、その都度によって顧客のニーズが異なるのです。これにより、一律の価格設定が難しくな理、顧客セグメントごとに異なる価値提案と価格設定が求められます。

◾️ 無形商材の価格設定に必要な方策

これらの理由から、無形商材の価格設定には、提供価値の明確化、顧客ニーズの深い理解、そして競合との差別化戦略が不可欠となります。適切な価格設定のためには、顧客との対話を通じて価値を共創し、その価値に基づいた柔軟な価格戦略を構築することが重要です。
具体的には以下の様な方策を行います。

1.    顧客ニーズの理解

ヒアリングを通じて、顧客の課題や期待を把握する
顧客が自由に回答できるようなオープンの質問をし、顧客のビジネス状況や目標を引き出すのが有効です

2.    価値の可視化

抽象的な価値を具体的に事例などで説明して、顧客が「自分が体験をする姿」を想像できるように伝える
他顧客の成功事例をストーリー仕立てで共有し、商材の価値を実績と結びつけるといった具合です。

3.    セグメント別の価値提案

顧客セグメント、特に顧客が契約を何で判断するかという「意思決定の基準」「価値観」のセグメントを明確にします。顧客セグメントごとに異なる価値提案と価格設定を行う
各顧客セグメントごとのニーズや支払い能力を考慮した柔軟な価格戦略を構築するのも有効です。

4.    価格設定の内訳を明確にする

時給ベースの計算、作業時間の推測、類似サービスの相場確認など、体系的な価格決定プロセスを確立する

コンサルティングサービスを例にとると、

  • 訪問時の対面コンサルティング:1時間 5万円
  • そのための戦略構築:1時間 3万円
  • 議事録などの資料作成:1時間 1万円

といった具合に項目ごとに価格設定をして提供時間に応じて積算をしていきます。

5.    顧客とのコミュニケーション

顧客との対話を継続し、ニーズの変化に応じてサービスや価格を調整する
価値の時間的変動を考慮し、定期的に価格戦略を見直す

6.    競合分析と差別化

競合他社の価格設定や提供価値を分析し、自社の位置づけを明確にする
独自の価値提案を通じて競合との差別化を図る

これらの方策を組み合わせることで、無形商材の価値を効果的に伝え、適切な価格設定を実現することができます。顧客との信頼関係構築と価値の共創を通じて、価格設定の難しさを克服し、持続可能なビジネスモデルを構築することが可能となります。

顧客価値を生み出すには、企業として顧客中心で物事を考える社内文化を構築する必要があります。顧客中心の企業文化については以下の記事で説明しているので、参考にしてください。

クリック→ 顧客志向とは?:顧客中心主義の企業文化を構築するステップ

◾️ なぜ、低い価格設定や値引きが悪手なのか?

一方で、低すぎる価格設定をしている場合や、売り上げが落ちてきたので値引きをしたいというケースも多く見受けられます。しかし、戦略なき値引きや低すぎる価格設定は、以下の様な問題につながります。

ブランド価値の低下

価格は価値のシグナルです。安価な価格は"質が低い"と見なされがちです。

利益率の低下

いうまでもなく利益率も悪くなります。薄利多売は、労力は増えますが、利益は減少します。

価格競争になる

そして、価格競争の泥沼にハマることになります。一度下げた価格を上げ、顧客に再契約してもらうことは難しいですし、一度始めた価格競争は、消耗戦に陥りやすく、他社との差別化も難しくなります。

「仕事が取れないのではないか」と価格を低くしたりすると、どうなるか?を、依頼する顧客の立場で考えてみましょう。

セミナーなどの有料の教育講座の事例で説明します。

セミナー会社A社主催の定例セミナーで、1日研修を1名10万円の参加費用で募集をしていたところ、集客ができなくなってきたとします。目標の集客数にするために、この参加費を、担当者が5万円に下げるとどうなるでのしょうか?

セミナー受講者から見たときに、それまで10万円の価値のある情報をくれていたセミナーが、5万円の価値しかくれないセミナーと認識されるのです。

価格は「価値の格」と書くように、単純な値引きや値決めはブランドそのものの価値を低くしてしまうのです。

◾️ 高く値付けするには何をすればいいのか?

単純な値引きや値決めを避けるために、今の価格をそのまま高く値付けすればいいのでしょうか?

もちろん違います。

今のサービスの値段を「高くする」のではなくて「価値を上げる」のです。言い方を変えると、「価値に見合った価格にする」のです。

単に価格を高くするだけでは、顧客満足が上がりませんし、顧客との関係性も長続きできません。顧客のニーズにマッチした付加価値の高いサービスを提供することが重要なのです。

顧客が感じる価値の高い体験を提供することで、顧客満足度が高まり顧客ロイヤルティの向上につながるのです。商品やサービスに付加価値をつけることで、競合他社との差別化が可能になります。そして、高品質なサービスは、ブランドの評判を高め、新規顧客の獲得にもつながる、という好循環が生まれるのです。

◾️ 無形商材の付加価値とは?

では、無形商材を扱う企業が顧客に提供できる付加価値とはどの様なものがあるのでしょうか?顧客視点での付加価値の例を3つ挙げると:

カスタマイズされた体験:

顧客個々のニーズや好みに合わせたサービスや製品を提供することで、顧客は自分に特化した価値を感じます。例えば、ホテルでの宿泊客が好みに合わせて、枕の種類やシャンプーやコンディショナーの種類を選べる様にすることがこれに当たります。

メイン商材の周囲にある課題解決:

顧客の抱える"主たる"課題間の解決に加えて、付随する時間や労力を節約できるサービスを提供することで、顧客は価値を感じます。例えば、コンサルティング期間終了後のアフターサービスの充実や迅速な対応などが、この付加価値に該当します2。

特別感や優越感:

「今だけ、ここだけ、あなただけ」というような、限定感のあるサービスや特別なイベントに招待されると、顧客は優越感や特別感を感じます。これにより、ブランドへの愛着や忠誠心が高まります。

これらの付加価値は、単なる製品やサービスの提供を超えて、顧客満足度を高め、選ばれる理由になります。また、長期的な顧客ロイヤルティを構築するのにも役立ちます。

付加価値の付け方については、以下の方法があります:

1 顧客ニーズの深い理解

顧客との積極的な対話を通じて、真の要望や課題を把握します。
アンケートやインタビューを実施し、顧客の声に真摯に耳を傾けます。

2 独自性の追求と差別化

自社の商品やサービスの優位性や特長を明確にします。
競合他社との差別化ポイントを見出し、強化します。

3 パーソナライゼーションの導入

顧客データを分析し、個々のニーズに合わせたサービスを提供します。
例えば、ECサイトでの商品レコメンドやパーソナライズメールを活用します。

4 業務効率化とサービス品質の向上

システム化やDXを推進し、無駄な業務を削減します。
内製化を検討し、品質管理を徹底しつつコストを抑えます。

5 新商品開発と新規市場開拓

顧客ニーズに基づいた新商品を開発します。
既存の製品やサービスに新機能や特徴を追加します。

6 顧客体験の最適化

バーチャル試着室やカスタマイズ商品など、ユニークな体験を提供します。
オンラインでの店頭体験の再現や、カスタマイズされた商品教育を実施します。

これらの方策を通じて、顧客にとって真に価値のあるサービスを提供することで、適切な価格設定が可能になり、持続的な成長につながります。

◾️ 【事例】価値ベースの価格設定〜コンサルティング会社のケース

製造業のクライアントに対して価値ベースの価格設定を行う場合の具体的なステップを、事例を交えて説明します。

1. 顧客セグメントの特定

まず、製造業クライアントの具体的なセグメントを特定します

•    中小規模の自動車部品製造業者
•    年間売上高:5億円
•    従業員数:100人

2. クライアントにとっての価値を見える化

次に、コンサルティングサービスがクライアントにもたらす具体的な価値を数字で表します:

•    生産効率の向上:年間生産量10%増加
•    コスト削減:原材料費を5%削減
•    品質改善:不良品率を2%から1%に半減

これらの改善により、クライアントの年間利益が約5000万円増加すると試算します。

3. 競合との価値の差異分析

そして、競合他社のコンサルティングサービスと比較し、自身のサービスの優位性を分析します

•    製造業に特化した10年以上の経験
•    類似案件での成功実績(平均8%の利益改善)
•    独自の生産性向上メソッドの提供

4. 価値に基づいた価格設定

クライアントにもたらす価値(年間5000万円の利益増加)の一部を自身の報酬として設定します。例えば以下の様な具合です

•    プロジェクト期間:3ヶ月
•    価格:1000万円(クライアントの追加利益の20%)

5. 価値提案の明確化

クライアントに対して、価格の根拠となる価値を明確に説明します:
「このコンサルティングプロジェクトにより、御社の年間利益を約5000万円増加させることが可能です。私の報酬はその20%の1000万円となりますが、これは御社にとって4000万円の純利益をもたらすことを意味します。」といった具合です。ここでのポイントはクライアントファーストです

この価値ベースの価格設定により、フリーランスコンサルタントは自身のサービスの価値を最大化し、クライアントにとっても明確なROIを示すことができます

これにより、値引き競争に巻き込まれることなく、高単価でのサービス提供が可能となります。

◾️ 顧客視点の価格設定〜まとめ

価格は"上げればいい"のではなく、"価値を高める"ことが重要です。 
マーケティング的顧客視点での価格設定である、価値ベースの価格設定、プレミアムサービスの開発、そして顧客ニーズに合わせたパッケージ販売戦略は、高単価でも選ばれるための効果的な方法です。これらの戦略を実践することで、値引きに頼らずにビジネスを成長させることができます。

自社の提供価値をまずは理解し、顧客に効果的に伝えることから始めましょう。そのためには、顧客の課題を理解し、解決するための分かりやすいソリューションを提供することが、高付加価値・高単価での販売を可能にします。

カスタマイズされた体験、特別感や優越感の提供、そして問題解決や時間節約といった付加価値を段階的に構築していくことで、顧客満足度を高め、長期的な顧客ロイヤルティを獲得することができます。

これらの戦略を組み合わせ、継続的に実践することで、価格競争に巻き込まれることなく、持続可能な高収益ビジネスモデルを構築することが可能となるのです。

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執筆者

マーケティングアイズ株式会社 代表取締役 理央 周(りおう めぐる)
石油会社、家電メーカー、大型車両メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、法人営業にマーケティングを注入する社員研修を提供。 2013年より2023年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で23冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典 

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