ポジショニングとは?:ポジショニングマップの正しい作り方

◾️ 【マーケティング初級者必見!】ポジショニングとは?


ポジショニングは、マーケティング戦略の心臓と呼ばれるくらい重要です。なぜなら「実務で使え」「成果を出せる」からです。
 
一方で「ポジショニングをやってみたけれど、うまくいかない」とか、
大事だと分かっているが、どうやって実際に使えばいいのかわからない
という声もよく聞きます。

これは多くの方が「ポジショニングを誤解している」ためうまく使えないのです。

ポジショニングをAI検索すると、
「ポジショニングとは、自社の商品やサービスを競合他社と差別化し、独自のポジションを確立することです」と出てきます。しかし、これだけではありません。

ポジショニングとは、

  • 自社、顧客、競合の現状を正しく把握して
  • 他社より優位に立てる戦略を立てること

なのです。

なので「ポジショニング戦略」と呼ぶ方が正しいのです。

目次
  1. ◾️ 【マーケティング初級者必見!】ポジショニングとは?
  2. ◾️ ポジショニング戦略をやる意味
  3. ◾️ なぜ、ポジショニングがうまくできないのか?間違えてしまう理由
  4. ◾️ 【事例】石油会社のポジショニングマッピング
  5. ◾️ 成果を出せるポジショニングマップの作り方
  6. ◾️ ポジショニングマップを作る意味
  7. ◾️ ポジショニングマップの作成ステップ

◾️ ポジショニング戦略をやる意味

ポジショニング戦略なしでビジネスをするということは、

  • 市場での「独自性」や「強み」が不明確になり
  • 顧客は自社を「その他大勢の中のひとつ」としか認識せず
  • 特に選ぶ理由がなくなり
  • 競争に埋もれ価格競争に巻き込まれるのです

カフェビジネスの事例で考えてみましょう。自社の強みが「おしゃれなカフェ」「美味しいコーヒーを提供」だとしても、これらだけではこれでは多くの競合と同じになってしまいます。ポジショニング戦略が明確でないと「近いからとりあえず行く」「たまたま見つけたから入る」という理由でしか選ばれなくなり、リピートにもつながりません。

「働く人向けの高速Wi-Fi完備カフェ」「完全予約制の静かな読書カフェ」など、ポジショニングを明確にすることで独自のイメージを確立できて選ばれるようになるのです。

ポジショニングは以下のような場合に、特に必要になります。

  • 新商品を発売する時
  • 既存商品のリブランディングを行う時
  • 競合他社との差別化を図りたい時

例えば、飲料メーカーB社は、競合他社との価格競争に苦しんでいました。そこで、B社はターゲット層を明確にし、『健康志向の女性』に絞り込みました。そして、『美と健康をサポートする』という新たなポジショニングを確立しました。その結果、B社は価格競争から脱却し、高価格帯の商品でも顧客に支持されるようになるといった具合です。

◾️ なぜ、ポジショニングがうまくできないのか?間違えてしまう理由

ポジショニング戦略を立てる時に「ポジショニング・マップ」を作ります。縦と横の矢印がある図です。マッピングは視覚的に捉えるのにとても有効ですが、間違えた使い方を多く見かけるため、正しい方法と比べていきます。

まずは、間違えているケースを紹介します。カフェのチェーン店の中でのスターバックスのポジショニングを考えるときの事例で説明します。

ポジショニングマップ.001.png

この図は、横軸が値段を表していて、右に行くほど高く左が安い、という具合です。縦軸は、サービスの質で、上にいくほどいいサービスを受けられる、という具合です。

この図に、タリーズやドトールなどの競合他社のポジションを入れこんでいき、スターバックスはこの辺だなというようにやる人が多くみられます。これは、大学院の学生も、また企業研修でのマネージャーの場合でも同様です。

このように進めていくと図のように、斜めの線で一列になってしまいます。
なぜ、このやり方ではこれではうまくいかないのでしょうか?
その理由を3つ挙げます。

①     競合との差別化が不十分

「価格が高いか安いか」と「サービスの質がいいか悪いか」を軸に使いがちです。 各企業とも価格設定の戦略を明確にしていることと、その範囲でできる最大限のサービスを考慮します。なので、価格を抑えた分、セルフサービスになったり狭いスペースになったりするので、この軸では各社が同じ傾向のポジションになるのです。

②     顧客視点ではなく、自社目線で決めてしまう

こうなる最大理由は「企業の狙い」ではなく「顧客がどう評価するか」という視点にあります。商品やサービス、価格という企業の提供物ではなく「顧客が感じる価値」を軸にとらないと意味がないのです。企業目線から顧客目線への転換が必要なのです。

③     重要な軸を間違えている

すなわち、ポジショニングマッピングで最も重要な「軸の決め方」から間違えてしまっているのです。この間違いも、価格を軸に入れてはいけない、ということではなく「顧客の価値観は何か?」と考えることです。具体的には顧客がカフェに求めるものは何か?をあげていくのです。このコーヒーチェーンの事例でいえば「価格 vs 品質」だけでなく「滞在時間の快適さ vs テイクアウトの利便性」なども考えるという具合です。

そもそも考えてみると、このマップの右下の方「高くてサービスも悪い店」を狙う会社もないし、顧客も行く気になりません。

このポジショニングマップの最大の問題点は「顧客不在、ニーズ不在」にあるのです。

◾️ 【事例】石油会社のポジショニングマッピング

マーケターがどんなふうにポジショニングマップを作るのかを、弊社のクライアント石油会社A社さんの事例で説明します。

A社では、ガソリン販売の不透明さから、ガソリンスタンドでカーリースを開始しました。しかし、数年たち売上が頭打ちになったところでご相談を受けたのです。

A社さんで配布していたカーリースのチラシには、リース車の写真がずらっと並び、月々1万円からリースできますと書かれていました。当時よくあった中古車販売店さんのチラシのようです。

一方でA社の社員の方々は、抜群の人間力を持っているので初期は売れていたのです。しかし、ガソリンを入れにくる人たちにお勧めしてもその時が欲しい時とは限りませんし、限界があります。

そこで、リースはどんなお客様にニーズがあるのか、を深掘りしていきます。お客様の間でA社は広告などもやっているので知名度は抜群でした。しかし、有名なのはA社は石油会社としてで、お客様はA社がリースをやっていることを知らなかったのです。
そこで視点を変えて「A社が売りたいのはリースだが、お客様が買いたいものは何か?」を考えていくことにしました。その結果リースの顧客は「車が欲しいのではなくて、便利な移動手段が欲しい」ということがわかりました。

このような状況下でポジショニングを考えていきました。

STPとポジショニング.002.png

ここで大事なことは、ポジショニングマップを書く前に、ニーズ、セグメンテーション、ターゲティングをはっきりさせることなのです。
セグメンテーションとターゲティングについては以下の記事で詳しく説明しているので参考にしてください。
→ STP分析とは?目的、やり方、活用方法とAmazonの事例で解説

まず、A社のリースの顧客が感じるニーズは、点検やメンテナンスが面倒なので手間をかけずに乗りたい、また、車は移動の手段なのでお金もそれほどかけたくない、というものでした。

そこから、以下のようにセグメンテーションを考えていきます。

  • 車検の時や、家族構成が変わって増車したいなど「変化の時」に買い替える層
  • 普段の買い物や家族の送迎、または通勤・通学に使う

といった具合です。

ここからターゲット像を決めていきます。通常は、複数のターゲット像を以下のように設定します。

  • 賢く乗りたい主婦層〜30〜60代
  • 増車したいシニア層〜50〜60代
  • 初めての車が欲しい若年層〜20代

これらを踏まえてポジショニングマッピングにしていきます。

◾️ 成果を出せるポジショニングマップの作り方

ポジショニングマップの事例.png

まず、縦軸は顧客がどんな時に使うか、というターゲット層のライフルスタイルを入れていきます。移動する時に乗る、遠出したい、趣味として乗るといった具合です。

横軸は、何を車に求めるか?という自動車に対する価値観を入れました。右から乗りたい時に乗れるように柔軟に乗りたい、便利でお得な方がいい、しっかり所有したいといった具合です。

次に、この図に、ユーザーたちが自動車を手に入れることができる競合を入れ込んでいきます。

左上から順に説明していきます。移動手段をして所有したい人たちは軽自動車のディーラーに行きがちです。また、トヨタやホンダなど普通車のディーラーは幅広いニーズに応えます。そして、趣味として乗ったり、自動車にこだわりのある層の多くは輸入車やレクサスのディーラーに行くことが予想されます。

しかし、自動車の需要はこの数年前から所有するだけではなく「使用する」ことへも広がっていったのです。そのため、顧客にとってカーシェアリングやレンタカーも選択肢になるのです。

当初、A社は軽自動車や普通車のディーラーと競合していました。しかし、マッピングを見るとわかる通り、このエリアは競争が激しいため、A社のリースの"強み"が出ないのです。

これらを踏まえて、今のポジションから少しずらし、
便利でお得、柔軟に手軽に乗れる
という立ち位置を強調する、ということになりました。

◾️ ポジショニングマップを作る意味

ポジショニング・マップを作る理由は、

1.    自社の市場での現状を正しく把握すること
2.    市場で"売れる機会"を見つけること
3.    現状にとどまるべきか新しいポジションに移行するかを決めること

上記でのA社の事例に当てはめると、

1.    顧客の価値観とライフスタイルをベースにポジショニングマップを作成し、自社と競合をプロットし、競合状況を見極める:混み合っている=競争が激しいと判断する
2.    同時に競合がいないホワイトスペース="売れそうな場所"を見つける
3.    とどまるか、移動するか、テストするかを決める

といった具合です。

また、ポジショニングマップは作って終わり、ではありません。ここからがスタートなのです。全社でこのポジションに行けるように進めていくのです。

そこで、このポジショニングをまとめた文言を作成し、全社に共有するために「ポジショニングステイトメント」を作成します。

A社さんの事例でいえば「A社のリースは、より賢く自動車に乗りたい人に、自由に使える、便利でお得、手軽な、チョイスを提供します」といった具合です。

お客様への約束の文を作る、というイメージです。これがあれば、営業をするときのトークにも共通認識が生まれます。

マーケティングの実務では、このようなマップを、顧客ニーズの部分を変えながら、何種類か作ってみて最終的なポジションを決めていきます。

顧客は、数多くの商品やサービスの中から、自分に合ったものを選ぶ必要があります。その際、ポジショニングが明確であればあるほど、顧客にとって記憶に残りやすく、選びやすくなるのです。

◾️ ポジショニングマップの作成ステップ

ポジショニングマップの作成手順.png

ポジショニングマップの作成のステップについてまとめます。

ステップ1:市場の把握

まずは市場全体を理解し、どのような競争環境にあるのかを把握します。市場の規模とか成長性、競合状況などです。例えば、スマートフォンのハードウェア市場は成熟市場だが、AI活用のSaaS市場は成長市場であるといった具合です。

ステップ2:セグメンテーション & ターゲティング

どの顧客層に対して、どんな価値を提供するのかを明確にする。

1)市場をセグメント(細分化)する

例: BtoC市場なら「年齢・性別・所得・ライフスタイル」などの要素で分類
例: BtoB市場なら「業界・企業規模・課題・購買プロセス」で分類

2)ターゲット層を特定する

セグメンテーションを組み合わせ、自社の強みを活かせる市場を特定します。競争が少なく、参入の余地がある市場を探すことが重要です。「エナジードリンク市場」なら、レッドブルは「アクティブな若者向け」、モンスターは「ゲーマーや音楽好き向け」と異なるターゲットを狙っていきます。

ステップ3:ポジショニングマップを作る

ポジショニングマップを作成し、競争環境の中で自社の最適な立ち位置を見つける。
軸を決める時に、単純に価格(高い vs 低い) × 品質(高い vs 低い)だけで決めず、顧客が何に価値を感じていることで決めまます。

そこに、今の自社と主要な競合をプロットして、売れるチャンスを探します。この段階では、自社のポジションを決める、というより探るというイメージです。

ステップ4:独自価値があるポジションを決める

アップルの「デザインとエコシステム」やダイソンの「最先端テクノロジー」のような他社には真似できない独自の強みを決めていきます。これに基づいて、ポジショニング・ステートメントを作ります。市場での立ち位置を明確にするための社内での共通認識です。
キャッチコピーとか社外向けではないので注意しましょう。

事例としては、「私たちは健康志向のビジネスパーソンに、無添加・高タンパクのスナックを提供することで、健康的な食生活をサポートします。」というように「私たちは(ターゲット層)に、(独自の価値)を提供することで、(競合との差別化ポイント)を実現します。」とまとめていきます。

ステップ5:一貫したブランド戦略を構築する

ポジショニングを顧客に浸透させるためのメッセージングとブランドを構築していきます。

スターバックスの「緑のロゴ」と「温かみのある店舗デザイン」のように、ロゴ、デザイン、カラー、フォントなどを統一します。

また、IKEAのように「手頃な価格でおしゃれな家具」といったマーケティングメッセージをウェブサイト、SNS、広告、店頭で統一して顧客に伝えていきます。

そして、顧客がどのようにブランドを認知し、購買し、リピーターになるかの流れ、すなわちカスタマージャーニーを設計します。Teslaでいえば「ショールーム→オンライン注文→無人納車」という独自の流れを確立するのです。

カスタマージャーニーに関しては以下の記事で詳しく説明しているので参考にしてください。
→ カスタマージャーニーとは?作り方、ステップ、仮説の立て方、作成のポイントを事例で解説

ステップ6:効果測定し修正する

ポジショニングが正しく機能しているかを測定し、必要に応じて軌道修正します。
具体的には、以下のようなKPI(重要業績指標)を設定し、実施しながら検証をしていきます。

  • ブランド認知度(SNSのエンゲージメント・検索数)
  • 顧客満足度(NPSスコア・レビュー評価)
  • 売上・利益率の向上
  • 市場の変化に対応
  • 顧客のニーズ変化

さらに、競合の動向を定期的に調査し、ポジショニングを微調整していきます。Netflixは元々DVDレンタルサービスだったが、ストリーミングにシフトして成功したのもポジショニングを変えていったことでできた戦略転換です。

ポジショニングは、規模の大小に関わらず、すべての企業にとって重要です。特に、競合が多い市場や差別化が難しい商品・サービスを提供している企業にとっては、ポジショニングが成功のカギとなります。

この記事について以下の動画でも説明をしていますので参考にしてください。

執筆者

マーケティングアイズ株式会社 代表取締役 理央 周(りおう めぐる)
石油会社、家電メーカー、大型車両メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、法人営業にマーケティングを注入する社員研修を提供。 2013年より2023年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で23冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典 

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