マーケティングファネルを法人営業に取り入れる方法

新製品を市場に導入するときに有効な戦略の1つに「マーケティングファネル」があります。
ファネルとは「じょうご」という意味で、潜在顧客を探すために広く市場にアプローチし、徐々に見込み顧客になってもらい、成約率を上げていく手法を指します。

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マーケティングファネルは、新製品の市場導入戦略の中でも、特に法人向けビジネスや住宅や保険、自動車など高関与製品を扱うビジネスに向いています。

この記事では

  • マーケティングファネルとは?
  • 通常の新製品の市場導入との違い
  • マーケティングファネルの一連の流れ
  • マーケティングファネルのフェイズごとの施策
  • 契約後のマーケティングファネル
  • 法人ビジネス向けのマーケティングファネルの事例

について説明していきます。

◾️ 製品の市場導入に有効なマーケティングファネル

マーケティングファネルとは、
製品やサービスを市場に効果的に導入するために、ターゲット層にその価値を深く理解させるための戦略的プロセス」です。

数ある新製品の市場導入戦略の中でも「ターゲット層に自社の価値をより深く伝える」ことに経営資源を割くことが特徴です。

◾️ 通常の新製品の市場導入とマーケティングファネルの違い

マーケティングファネルと通常の市場導入の違いは、戦略性とプロセスの徹底度、そして何よりも顧客との関係性構築の3点にあります。それぞれ以下のような特徴があります。

1. アプローチの目的

マーケティングファネル:

顧客の理解を深め、製品の価値を最大限に伝えることに重点を置きます。「知らない」「興味がない」顧客を、理解し納得した顧客へ変えるためのプロセスを丁寧に設計します。

通常の市場導入:

製品を市場に投入し、販売活動を開始することが主目的です。短期的な売上成果を優先し、詳細な顧客教育やマーケティングプロセスを省略することがあります。

2. プロセスの段階での違い

マーケティングファネル:

顧客ニーズの調査とターゲティングし、製品のポジショニングと価値提案の明確化します。
製品情報を浸透させるために、事前準備として顧客データを収集しリストを作成します。そのリストに向けて、認知度を高めさらに製品情報をより詳しく伝えるローンチイベントやキャンペーンを段階的に実施します。購入後にもフォローアップを継続します。

通常の市場導入:

通常でも、顧客ニーズの調査とターゲティングし、製品のポジショニングと価値提案の明確化しますが、製品を販売チャネルに投入し営業活動に入ります。認知度アップは、広告や営業を通じて行うことが大半です。その時点で顧客反応も収集しますが、対応は後回しになりがちです。顧客名簿を作成せずに進めることが多いためフォローアップも個別対応が難しくなります。

3. 顧客との関係性

マーケティングファネル:

顧客との信頼関係を構築することを重視します。ローンチの各段階で、製品の価値、他社との差別化、顧客が得られるメリットを丁寧に伝え、ターゲット層が納得した上で購買や契約に至ることを目指します。

通常の市場導入:

顧客に製品を売ることが中心になりがちで、購入後のフォローや継続的な関係構築が軽視される傾向があります。

これらの違いからもわかるように、大きく違うのは顧客との関係性を段階的に構築していくことです。

◾️ マーケティングファネルの一連の流れ

新製品を導入するときにうまくいかない理由の1つは、集客策と売り込みばかりを考えて、間がないからです。
この"間"とは何でしょうか?

ここで少し目線を変えて、顧客の立場に立って考えてみます。
 
顧客はそもそもあなたの新製品のことを知りません。そして万が一知ってくれたとしても、興味がないのです。興味が出てきても、詳しいことを知らないし、他社と何が違うのか?契約すると何がメリットなのか、一切知らないのです。したがって、そこにいきなり売り込みに行っても、見向きもされないのは当たり前なのです。新製品の市場導入の際は、少なくともこの前提に立たなければなりません。
 
新製品の市場導入の場合は、あなたの製品やサービスをお客様に知ってもらい、違いやメリットを深く理解してもらうといった、契約前の疑問点を全て解消するプロセスが必要なのです。
 
この「顧客が、あなたの新製品を知って、深く理解して、評価して、納得して問い合わせてきて、契約に至るすべてのプロセスに段階的に打つ施策の流れ」を、マーケティングファネル、と呼ぶのです。

◾️ マーケティングファネルの中でのマーケティングファネルの構築ステップ

マーケティングファネルは、マーケティングファネルと合わせて構築することで効果を発揮します。マーケティングファネルについては、以下の記事を参考にしてください。
【経営者・ CXO必見!】マーケティング的セールスファネルで法人営業の課題を解決する方法

また、マーケティングファネルも、他のマーケティング施策同様に、顧客視点で実施することが重要です。ここでは、顧客心理がどう動き、それに伴って顧客がどんな行動をするのか?をまずは洗い出し、そこから各フェイズで何をすればいいのかを考えていきます。

上記の図にあるように、顧客の心理の動きと行動は、ニーズに気づき、情報を収集します。そしてさらに、詳細を知りたくなり、検索をしたりイベントなどに参加します。集めた情報を比較し検討をしたいと考え、具体的な情報収集のために、提供企業に問い合わせなどをします。契約前には、最終確認のために社内稟議を通し、契約購買をします。その後も、メンテナンスや次のニーズに気づいたりし、また情報を集めます。この体験に基づき、気に入れば共感しファンになってくれて継続での取引になったり、口コミをしてくれたりします。

◾️ マーケティングファネルのフェイズごとの施策

この顧客心理と行動のフェイズに適した施策を考えていきましょう。

マーケティングファネル 顧客心理、顧客行動とマーケティング施策.png

情報を集めたいと感じているターゲット層にむけて、SEO対策をしたブログやLP(ランディングページ)を作成します。リードを得るために、広告でサイトへの流入を促すことも効果的です。

次に、詳しい情報を得たいターゲット層のために、ブログ、動画コンテンツといった詳細を説明できるコンテンツを作成します。また、ウェビナーやSNSを活用して顧客名簿になる情報、例えばメールアドレスなどを取得します。そして、そのリストに向けて、メルマガなどで継続的に有益な情報を発信します。

そして、製品デモ動画や活用事例の提供、専門的な記事や技術的な解説など、より詳しい情報を段階的に発信していくことで、ターゲット層を啓蒙していきます。

契約寸前の顧客は、社内の各部署に最終調整に入り、場合によっては社内稟議を取ったりします。そうなると今まで説明を聞いていなかった部署から、疑問や質問が社内で出てきます。

その際に担当者が答えられるように、契約後に起こりうるであろうアフターサービスやこれまでのトラブルシューティング、F A Qなどをこの段階で手渡しておくことも効果的です。

◾️ 契約後のセールスファネル

契約で終わりではありません。商売は、買ってもらってから後が大事なのです。

契約後には、アフターフォローのために、使い方のヒントや運用マニュアルを作成したり、他業界での使われ方などを定期的に配布することが大事です。サービスのみでなく、顧客が次にニーズに気づいた時のために、常にユーザーイベントを開催し、自社を一番に想起してもらえるようにしておくことが重要です。

そして、自社のファンになってもらうために、顧客インタビューや成功事例集を配布するなど有英な情報を定期的に配布することも次の注文への布石になります。

工場見学に招待するとか、参加型キャンペーンも効果的です。

◾️ 法人ビジネス向けのマーケティングファネルの事例

マーケティングファネルの構築について、法人向けのビジネスである建築用の資材のメーカーが新製品を市場導入する時の事例で説明します。

製品コンセプトを明確にする

ファネル導入前に、まず製品コンセプトをはっきりさせます。例えば、環境に優しい断熱材を開発することで、サステナビリティに重点を置く建築市場をターゲットという具合です
 
市場デビューに向けて、建築業界におけるサステナビリティのトレンド、顧客のニーズ、競合他社の製品などを分析します。

戦略構築

次に、マーケティングファネルの戦略を立てます。
 
特定した市場の特定から、ターゲット企業の像を明確にします。具体的には、エコ意識が高い建築家、大規模建築プロジェクト、住宅建築業者などをターゲットに設定します。

同時に、競合との比較、コスト構造、市場の価値認識を考慮して価格を設定します。

市場導入キャンペーン

ここから、マーケティングキャンペーンを立案します。環境への影響度とか、断熱性能、コスト効率の良さなど、強調するポイントを決めます。
 
専門の建築資材店、オンラインプラットフォーム、直接営業などを通じて製品を販売流ためのチャネルも決定していきます。
 
次に、顧客接点での販売促進案を作成します。具体的には、建築展示会や業界イベントでの製品発表会を開催し、業界関係者やメディアに製品を紹介するといった具合です。
 
ここで集めた見込み客のリストに向けて、フォローアップをしていきます。
 
同時に、モニター企業や最初の顧客からのフィードバックを集めて、製品の改善点を特定します。
 
ここまで顧客の心を温めて、初めて契約に至るのです。

◾️ もしマーケティングファネルなしでビジネスをやるとどうなるのか?

逆に、マーケティングファネルの考え方無しで市場に製品導入をするとどうなるでしょうか?
多くのリスクや問題が生じる可能性があります。
 
効果的なプロモーションやマーケティング戦略がない場合、ターゲット市場は新製品の存在を知らず、興味を持たない可能性が高くなります。
 
製品の特徴やメリットがうまく伝えられ図、購入意欲も上がらないし、、差別化ポイントも分かって貰えないので、価格競争になったりして、販売目標の達成が難しくなります。
 
製品が市場の期待に応えられない場合、顧客満足度は低くなり、リピート購入や口コミ推薦が期待できません。
 
そしてリソースの無駄使い:、投資した時間、労力、資金などのリソースが無駄になる可能性があります。
 
また、初期の失敗は、ブランドの長期的な評判や信頼性に悪影響を及ぼすことがあります。
 
このように、戦略的なマーケティングファネルによるアプローチなしに、市場に製品を導入すると、成功の可能性は著しく低下し、ビジネスに悪影響を及ぼすリスクが高まります。
 
マーケティングファネルをせずに失敗した事例として、スマホの新製品導入を事例に取ってみます。
 
ある企業が、新しいスマートフォンを発売したところ、ユーザーからは「機能が豊富すぎる」「使いこなすのが難しい」などの不満の声が寄せられ、売れ行きが伸び悩みました。
 
原因は、企業がターゲット顧客のニーズを十分に理解せずに、たくさんの機能があれば嬉しいだろう、と、多くの機能を搭載したスマートフォンを発売したことにあります。
 
発売までに、ユーザーテストや反応を見て軌道修正するとか、サイトやマニュアルに、機能説明をつける、YouTubeなど動画やイベントで機能説明する、A Iチャットbotで説明する仕組み、などで解決できることもあるはずです。

そのためには、テストと検証を繰り返すこと、顧客の本当のニーズを汲み取ること、テストと検証の繰り返しが必須ですよ。
 
新製品の市場導入を成功させるカギは、計画の段階から実施、分析に至るまでの各プロセスに、顧客視点での施策を戦略的に打つことにあるのです。

執筆者

マーケティングアイズ株式会社 代表取締役 理央 周(りおう めぐる)
石油会社、家電メーカー、大型車両メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、法人営業にマーケティングを注入する社員研修を提供。 2013年より2023年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で23冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典 

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