レッドオーシャンの市場で差別化ができるのか?ブルーオーシャンを生み出せるマーケティング組織とは?

◾️ レッドオーシャンでも差別化できるのか?

「目立つか、消えるか」「注目されなければ終わり」という今、
自社の製品やサービスをどうアピールすればいいのでしょうか?

競争の激しい市場で、目立ち差別化ができている企業はどのような企業なのでしょうか?
3社の事例を見ていきます。

1つ目は Dyson(ダイソン)
家電業界、とりわけ掃除機市場は非常に競争が激しいレッドオーシャンでした。
しかし、Dysonは「サイクロン方式」という従来の掃除機とは全く異なる技術で参入し、
紙パック不要という独自の価値を提供しました。
この差別化によって、高価格帯にもかかわらず急速にシェアを拡大し、
現在ではプレミアム家電ブランドとしての地位を確立しています。

2つ目は Spotify
音楽配信市場はiTunesや他のストリーミングサービスが先行していたレッドオーシャンでした。
しかし、Spotifyは月額課金制のサブスクリプションモデルと、
無料ユーザー向けの広告付きストリーミングを組み合わせた独自のモデルを導入し、
ユーザーに無料で音楽を楽しむ選択肢を提供しました。
これにより、競合が激しい市場でも大きな成功を収め、音楽ストリーミング業界のリーダーとなりました。

3つ目は檸檬堂、酎ハイです。
日本コカ・コーラは、競争が激しいチューハイ・サワー市場に後発で参入しました。
商品開発チームは、居酒屋やバーに足を運び、消費者のニーズを直接調査しました。
この現場からのヒントを活用して、トレンドに合った「檸檬堂」を開発し、
全国展開からわずか1年で約790万ケースを売り上げ、競争の激しい市場で一定の地位を築きました

競争の激しい市場でも、独自の技術やビジネスモデルさえあれば成果を上げられることを示しています。

競争の激しいレッドオーシャンの市場は、逆に言えばニーズのある美味しい市場です。そこにチャンスを見出し、差別化さえできれば生き残れるのです。

しかし、そんなことは社長も、社員もみんな分かっているはずです。

◾️ なぜレッドオーシャン市場で差別化ができないのか?

差別化の重要性を理解していても、組織としてマーケティング志向、顧客視点に変わることができなければブルーオーシャンを見つけそこに製品を投入することはできません。

その障害になるのが、以下の3点です。

  • ニーズの読み違い
  • 変化を恐れる文化
  • 部署間の連携不足

これらにより、全体的な戦略が一貫せず、実行に移せない状況が生まれています。
それぞれを解説していきます。

◾️ ニーズの読み違いはなぜ起こるのか?

市場の変化に対する認識不足

市場や顧客ニーズが変わっているにもかかわらず、その変化に気づかず、差別化戦略を実行しないことも大きな盲点です。顧客の声やデータを集めていても、適切に分析し、意思決定に反映できない組織が多いのです。

【事例】Nokiaの衰退 
Nokiaはかつて世界の携帯電話市場をリードしていましたが、スマートフォン時代の到来に迅速に対応できませんでした。iPhoneやAndroidの登場により、顧客のニーズが「通話機能中心の携帯電話」から「多機能のスマートフォン」にシフトしていたにもかかわらず、Nokiaは従来の携帯電話製品にこだわり、差別化のポイントを見失いました。

顧客のニーズを誤解している

顧客の本当のニーズを誤解していることも差別化ができない原因となります。企業が「顧客が欲しい」と思っているものを提供しているつもりでも、実際には顧客の期待に応えていないことがよくあります。

【事例】鎌倉の古民家レストランでは、店側が考える強み(差別化要因)と、顧客が来店する理由に大きなギャップがありました2。店側は「古民家」や「地元食材」を強調していましたが、顧客は「雰囲気」や「料理の味」を重視していたのです。


短期的な成果を求める社内文化

四半期ごとの業績に注目するあまり、長期的な差別化戦略の構築や実行が疎かになることがあります。

【事例】ある小売チェーンは、短期的な売上向上のために頻繁に値引きセールを行っていましたが、結果として自社ブランドの価値を低下させ、長期的な差別化に失敗しました。

◾️ 変化を恐れる企業文化

リスクを恐れ、変化を避ける文化

多くの企業は、「変化を恐れる文化」があります。新しいことにチャレンジするリスクを嫌い、現状維持を選択することで、差別化が進まないことがあります。特に、大企業になるほど、安定性を重視して挑戦を避ける傾向が強くなります。

【事例】Blockbusterの消滅 
ビデオレンタルチェーンのBlockbusterは、Netflixのようなストリーミングサービスに対する投資を怠り、レンタル事業に固執しました。経営陣は新しいビジネスモデルを試すリスクを避け、現状を維持することで安定性を保とうとしましたが、結果的には競争力を失い、市場から姿を消すこととなりました。

過去の成功体験に固執する

多くの企業が直面する盲点の一つは、「過去の成功体験に固執する」ことです。成功したビジネスモデルやプロダクトが、いつまでも有効だと思い込み、環境が変化してもそのやり方を続けてしまいます。

【事例】Kodakの失敗 
Kodakはかつて写真フィルム業界のリーダーでしたが、デジタルカメラの台頭に対応できませんでした。デジタル技術に早くから気づいていたにもかかわらず、既存のフィルム事業にこだわり、差別化のチャンスを逃しました。結果として、企業としての競争力を失ってしまったのです。このケースでは、「デジタル技術に移行するリスク」よりも「フィルム事業を維持する安全性」を選んだことで、差別化ができずに失敗しました。

思考の停止

固定観念にとらわれたり、慣れ親しんだ方法に固執するあまり、思考が停止してしまい、新しいアプローチを採用することへの抵抗が生まれるのです。

【事例】ある伝統的な出版社は、デジタル化の波に乗り遅れ、電子書籍市場での差別化に失敗しました。「紙の本」にこだわる社内文化が、新しいビジネスモデルへの移行を妨げたのです。

内部志向の組織文化

内部の効率性や既存のプロセスを重視するあまり、市場の変化や顧客ニーズの変化に柔軟に対応できない企業も多く見受けられます。

【事例】ある大手電機メーカーは、長年培った技術力を強みとしていましたが、スマートフォン市場の急速な変化に対応できず、市場シェアを失いました。技術志向の文化が、顧客ニーズの変化への適応を妨げたのです。

◾️ 部門間の連携

組織のサイロ化(部署間の断絶)

もう一つの盲点は、組織内での「サイロ化」です。マーケティング部門が顧客データや市場トレンドを把握していても、製品開発部門や営業部門と十分な連携が取れていない場合、差別化戦略がうまく進まないことが多いです。異なる部門がそれぞれ独自の視点を持っているため、全体として一貫した差別化ができません。

【事例】大手メーカーの新商品失敗 ある大手メーカーが新商品を市場に投入した際、マーケティング部門は「高機能性」を訴求ポイントにしていた一方で、製品開発部門は「低コストでの大量生産」に焦点を当てていました。このため、製品の品質が十分に高くなく、ターゲットとする顧客に響かず失敗しました。部署間の連携が欠如していたことで、競合との差別化ができなかった事例です。


◾️ 企業をマーケティング・顧客志向の文化にするための方針と具体策

ここまで説明したような障壁を取り除き、企業文化を売り手目線から顧客視点に変えていくためには、顧客中心に考える土壌、新しい発想を生み出せる力、持続できる成長の土台、を構築していく必要があります。

1.    顧客中心主義の企業文化

顧客価値を創造するためには、顧客中心の考え方を取り入れることが必要です。その一環として、定期的に顧客調査を実施し、顧客のニーズや課題を深く理解します。そして、顧客フィードバックを集める仕組みを構築し、その意見を商品やサービスの改善に反映させます。また、顧客と共に価値を創り出す「共創プログラム」を実施し、顧客参加型の価値創造を進めます。

次に、データに基づいた経営を推進することも顧客価値創造には欠かせません。市場の動向を把握するために、定期的に市場分析を行います。そして、デジタルトランスフォーメーションを進め、最新のデジタル技術を活用して効率的な経営を実現します。


2.    イノベーション的な発想ができる企業文化

組織の能力を高めるためには、まずイノベーション文化を育成することが重要です。

そのためには、組織内にイノベーションラボを設置し、新しいアイデアを試す場を提供する必要があります。また、失敗を許容する評価システムを導入し、社員が積極的に挑戦できる環境を作ることも効果的です。

さらに、組織の柔軟性を高めるために、部門を横断したクロスファンクショナルチームを設置し、効率的な意思決定を可能にします。そして、社内のコミュニケーションを強化し、迅速に対応できる体制を整えることが求められます。

加えて、継続的な学びを重視する姿勢も大切です。従業員向けの教育プログラムを充実させることで、社員のスキル向上を図ります。また、外部の専門家を活用して最新の知識や技術を導入し、組織全体の成長を支援します。

3. 持続可能な成長

持続可能な成長を実現するには、長期的な視点を持つことが重要です。現在設定されているKPI(重要業績評価指標)を見直し、必要に応じて再設定することで、目標を現実的かつ効果的なものにします。また、定期的に戦略レビューを実施し、計画を振り返りながら改善を図ります。

さらに、オープンイノベーションを推進することで、組織の成長を加速させることが可能です。外部の専門家を活用し、外部からの知識やスキルを取り入れるとともに、顧客との共創プログラムを通じて新しいアイデアを実現します。
最後に、持続可能性を重視する姿勢が不可欠です。ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、多様な価値観や視点を組織内に取り入れることで、柔軟で持続可能な組織運営を目指します。そして、持続可能な成長を実現するために、KPIを適宜見直し、改善を続けることが必要です。

積み上げていく企業文化は、一過性の社風とは大きく異なります。
一歩ずつ階段を登るように、醸成していく必要があるのです。

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