PMF〜マーケティング視点で考えるプロダクトマーケットフィット

      目次
  1. PMFとは〜定義
  2. PMFの重要性 
  3. どういう時にPMFは効果を出すのか?
  4. PMF:チェックポイントと注意点
  5. まとめ 

■PMFとは〜定義

変化の激しい昨今、「良いものを作れば売れる」ことはほとんどありません。
市場を正しく把握して、そこに自社だけが提供できる価値のあるプロダクトを出し、
つねにニーズとマッチしているかを検証し、改善をしていくことが必須なのです。

この市場ニーズと自社製品とがマッチしている状態を、
PMF(=プロダクト・マーケット・フィット)と呼びます。

新製品開発や新規事業の立ち上げをする時は特に、
市場の状況や競合の動き、自社の強みや独自の技術など、
多くのことを考えなければなりませんよね。

市場(マーケット)を正しく把握し、
具体的なニーズを持つターゲット層が持つ、
課題を解決できる製品やサービス(プロダクト)を、
開発、市場導入することで、
製品と市場ニーズがマッチしている状態が理想的です。

このような、製品(プロダクト)が特定の市場(マーケット)のニーズに、
フィットしている状態がPMFなのですが、
言い方を変えると、顧客が求めているものとあなたが提供するものが、
合致している状態を指すのです。

SlackのPMFの成功事例を紹介します。Slackの成功は、単にコミュニケーションツールとして優れただけでなく、まさにプロダクトとマーケットのニーズが見事に一致した結果です。

プロダクトの強みとマーケットのニーズ

従来のメールの課題解決:

メールは、情報が散逸しやすく、リアルタイムなコミュニケーションが難しいという課題がありました。Slackは、チャンネル機能によって情報を整理し、スレッド機能で会話の流れを把握しやすくすることで、これらの課題を解決しました。

チームワークの促進:

従来のオフィスワークでは、物理的な距離や部署間の壁によって、コミュニケーションが阻害されることがありました。Slackは、場所や時間にとらわれず、チームメンバーがいつでもどこでも気軽にコミュニケーションを取れる環境を提供し、チームワークを促進しました。

リモートワーク時代の到来:

Slackが本格的に普及し始めた頃、リモートワークは一部の企業でしか導入されていませんでした。しかし、Slackは、リモートワークにおいても円滑なコミュニケーションを可能にするツールとして、その重要性を高めていきました。

マーケットのニーズとのマッチング

企業におけるコミュニケーションの変化:

企業は、より迅速かつ柔軟な意思決定を求められるようになり、それに伴いコミュニケーションの効率化が求められていました。

モバイル化の進展:

スマートフォンの普及により、いつでもどこでも仕事ができる環境が整い、モバイルでのコミュニケーションツールへのニーズが高まっていました。

クラウドサービスの普及:

クラウドサービスの普及により、ソフトウェアの導入が容易になり、SaaS型のコミュニケーションツールへの関心が集まっていました。

Slackが成功した理由

Slackは、これらのマーケットのニーズを的確に捉え、以下の点で優位性を確立しました。

シンプルで直感的なインターフェース:

誰でも簡単に使いこなせるシンプルなインターフェースは、ユーザーの導入障壁を下げました。

豊富な機能:

ファイル共有、ビデオ会議、検索機能など、ビジネスに必要な機能を網羅し、ユーザーの多様なニーズに応えました。

無料プランの提供:

無料プランで基本的な機能を提供し、多くのユーザーを獲得し、口コミで広がることを促しました。

継続的な改善:

ユーザーからのフィードバックを基に、機能を不断に改善し、ユーザーの期待に応え続けました。

Slackの成功は、プロダクトの優位性とマーケットのニーズが完璧に合致した結果と言えるでしょう。Slackは、単なるコミュニケーションツールにとどまらず、働き方そのものを変革する存在となりました。

マーケットイン、プロダクトアウト、という考え方があります。

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極端にいうと、
マーケットインとは、市場のニーズから考えて商品を開発するアプローチで、
プロダクトアウトは、自社の突出した技術で製品を開発し、市場に合わせるアプローチです。

マーケットインの考え方で、市場のニーズや顧客の声だけを頼りに製品開発をすると、
顧客が求めるものはできあがりますが、顧客の期待を超えるものを生み出しづらいため、
ありきたりなものになりがちです。

顧客の声さえ聞けば良い、というわけではないのです。

一方で、プロダクトアウトというアプローチだけで、自社技術を全面に押し出そうとして、
あまりにとんがった製品を世に出す、市場にいる顧客企業に理解されず、
まったく相手にされない、ということになりがちです。

良いものを作れば売れる、というわけでもないのです。

どちらのアプローチも必要ですが、環境や市場の変化が激しく、不安定な今、
バランスをとりながら、どちらも平行して進めていく、PMFが大事なのです。


PMFの状態を持続するには、プロダクト開発とマーケット把握を同時に、
この2つを行ったり来たりしながら、進めていくことが重要です。

ここでは、このPMFがなぜビジネスにいいのか、
どういう場合に効果を発揮するのか、
どうやってPMFの状態を保つのか、進めていく上での注意点は、など、
PMFについての重要事項をまとめていきます。

■PFMの重要性

なぜPMFが重要なのかについて、PMFが実現されるとどうなるのか、
という視点で考えてみましょう。

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1.持続的な収益の向上

- PMFが確立されると、長期的に安定した収益が期待できます。

2.顧客満足度:

- 顧客のニーズに合った製品を提供できるため、顧客満足度の向上が高まります

3.効率的なマーケティング:

- 製品が市場に合っている場合、マーケティングの効果も高くなり、ROI(投資対効果)が向上します。

Appleは顧客のニーズと、テクノロジーのトレンドを理解し、iPhoneを開発しました。
結果的に革命的なプロダクトが生まれ、大成功を収めました。

そして継続的に、本体や周辺機器のハードウエアと、OSやアプリといったソフトウエアの、
両方を改善改良することで、持続的な成長をしています。

こうやってみてくるとわかるように、PMFが保てることによって、
自社ブランドの価値を上げること、および、長期的なビジネスの安定に繋がるのです。

■どういう時にPMFは効果を出すのか?

ではどういうシチューエ―ションで、PMFを行うと効果的なのでしょうか。
いくつか事例を挙げてみます。

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1.新製品・サービスのローンチ:

- 新しい製品やサービスを市場に投入する前に、その製品が顧客のニーズにどれだけ合っているのかを検証しながら、改善を重ねていけるため

2.市場変化時:

- 既存の製品がうまく売れなくなった時には、市場のニーズが変わった可能性があります。その時にPMFの状況を再評価することで、製品の改良方向を見つけられます。

3. 拡大・多角化時:

- 新規事業の立ち上げや多角化を考えている場合、新しい市場や顧客層にどれだけ製品がフィットするかを調べる時のアプローチに使えます。

4. 競合が増えた場合:

- 競合他社が増え市場が飽和してきた時や、多業界からの市場参入があった時に、自社の製品がいかに優れているかを証明するデータを集めるためにも使えます。

5. 技術進化に伴うアップデート:

- AIやIoTなど新しい技術が出てきた場合、その技術を活用して製品をアップデートする際の方向性を見極めるためにも有効です。

これらのようなタイミングでPMFを行うと、より効果的な結果が得られやすい、といえます。

PMF(プロダクトマーケットフィット)は、基本的にどんな企業でも重要ですが、
特に以下のようなケースで必須となります。

1. スタートアップ企業

資金が限られているため、製品がしっかりと市場に合っていなければ、短期間で事業が崩壊するリスクが高い。

2. 中小企業

- 大企業と比べてリソースが限られるため、無駄な投資を避け、効率的に事業を展開する必要がある。

3. 新製品・新サービスを提供する企業

- 市場が未知数であるため、製品が市場のニーズに合っているか確認する過程が不可欠。

4. 成長期の企業

- 事業が拡大するにつれて、市場や顧客のニーズも変わる可能性がある。そのため、pMFを再評価して適応する必要がある。

5. シーズンビジネスを展開する企業

- シーズンごとに消費者の行動やニーズが変わる可能性があるため、PMFを頻繁にチェックする必要がある。

6. 高競争の市場にいる企業

- 競合が多い市場では、PMFを高めることで差別化と顧客の囲い込みが可能。

7. 既存ビジネスのモデル変更を考えている企業

- ビジネスモデルを変更する場合、新しいPMFを確立する必要がある。

企業がどのようなステージにあるのか、何を目的としているのかによってもPMFの重要性は変わりますが、基本的には全ての企業にとって重要なコンセプトです

■PMF:チェックポイントと注意点

ではここで、自社プロダクトがPMFの状態になっているのか?
また、もしなっていないなら何をすべきか?について説明します。

1. ニーズと供給のマッチング:

- 顧客の求める価値と、製品が提供する価値が一致している。
- どちらかが低ければ改善をしていく

2.高い継続利用率:

- 顧客が一度製品を使った後も、継続して使い続けている。
- 離脱率、解約率などが低ければ、既存顧客戦略を見直す

3.口コミ:

- 満足した顧客が自然に製品を他人に勧めてくれる。
- 既存顧客経由の新規顧客が少ない場合は、自社プロダクトの品質や継続使用サービスの内容を皆そう

4. 価格設定:

- 顧客が製品の価値に見合った価格だと感じ、購入している。
- 値引きしないと売れない、粗利が取れないという問題がある時には付加価値がついているかどうかを確認する

5.スケーラビリティ:

- 成功した製品をさらに多くの人に提供できる余地がある。
- 経営資源の見直しを定期的に行う

一方で、PMFを推進する時にも注意すべき点があるので、
いくつか挙げておきます。

1.過度な自信:

- 自分たちの製品が最高だと過信しすぎない。

2.顧客インサイトの軽視:

- 顧客の本当のニーズを理解していないと、失敗する。

3.早計な拡大:

- PMFが確立されていないのに、無理に拡大すると破綻のリスクがある。

4. アップデートの頻度:

- 顧客のニーズに合わせて頻繁に製品をアップデートする必要があるが、やりすぎると顧客がついてこれなくなる。

5.競合との比較:

- 他の製品と何が違い、なぜ自社製品が必要なのかを常に考える。

PMFは一度達成して終わりというものではなく、継続して初めて持続的な価値につながります。
NPS(ネットプロモータースコア)などの定点観測をしつつ、
常に現在の状況を把握しておくことが重要です。

■まとめ 

市場がどんどん変わっていく中で、
プロダクトマーケットフィット(PMF)は、
必要不可欠です。

ただし、一度手に入れればいい、
というものではなく、
継続的な努力と改善が求められます。

顧客のニーズの変化を把握し、
それに合わせて自社の商品やサービスを、
随時調整することで、
長期的な成功が見込めるのです。

執筆者

マーケティングアイズ株式会社 代表取締役 理央 周(りおう めぐる)
石油会社、家電メーカー、大型車両メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、法人営業にマーケティングを注入する社員研修を提供。 2013年より2023年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で23冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典 

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