マーケティングの4Pと4C〜成果を出せる使い分けとを事例で解説

◾️ 【初心者必見!】 マーケティングツールの4Pはなぜ長く使われているのか?

「マーケティングの4P」は、マーケティング活動をしていく上で重要なツールとして長く使われています。4つのPは、Product、Price、Promotion、Placeの頭文字をとっています。マーケティングミックスと呼ばれることもあります。

ジェローム・マッカーシー(E. Jerome McCarthy)というアメリカのマーケティング学者が、1960年に著書「Basic Marketing: A Managerial Approach」の中で4Pの概念を提唱しました。この概念はその後、マーケティングの基本的なフレームワークとして広く普及し、今でも使われています。

長く使われている理由は「実務で使えるから」です。

まず、4Pは市場にいる顧客への接点をカバーしていて、企業が製品やサービスを市場に展開する際の戦略を簡潔に整理できることです。

新製品の開発を例にとると「どのような価値を提供するか(Product)」、「価格をどう設定するか(Price)」「どこで販売するか(Place)」「どうやって販売するか(Promotion)」といった基本的な問いを体系的に考えられるため、新人からベテランまで広く適用できるのです。

次に、4Pはビジネスと顧客の接点を、体系的に整理して計画に反映できます。構造化できるのです。

例えば、新製品を導入する際に「市場でどのようなポジションを取るべきか」を4Pの視点で検討することで、漏れることなく顧客に対するアプローチの施策を考えられます。

◾️ 4Pは本当に正しいのか?〜4Cの登場

一方で、4Pのようなフレームワークは、時代や市場の変化に応じて解釈や適用を進化させる必要があります。

例えば、オンライン市場が台頭してきたことにより「Place(流通チャネル)」は、店舗だけでなくeコマースやデジタルプラットフォームも含むように進化させるとか、伝統的な広告(Promotion)がSNSやインフルエンサーマーケティングに広がったように、4Pは新しいトレンドや技術に適応させて初めて効果を発揮します。

一方で、1990年に、ロバート・ラウターボーン(Robert F. Lauterborn)が、4Pというコンセプトには「顧客視点が足りないのではないか?」という視点で「4C」という考え方を提唱しました。

マーケティングの4Pと4Cの比較.png

従来の4Pは企業視点に偏っていると指摘し、4Pのそれぞれを以下のように、顧客視点に置き換えたのです。

  • Product 製品 をCustomer Value "顧客価値"
  • Price 価格 をCost "顧客が支払う対価"
  • Promotion 販売促進 をCommunication"顧客とのコミュニケーション"
  • Place 販売する場所 を Convenience "顧客が便利に探せ、買える施策"

この4Pと4Cは、どちらが正しいのでしょうか?
4Pは古いので時代遅れだとか、顧客視点が重要なので4Cが正しいとか、といったような「どちらか一つが正解」ではないのです。4Pと4Cは並行して考えていくのが重要です。

市場が複雑になっている今、顧客視点でのマーケティングは必須です。
顧客視点については以下の記事で説明しているので参考にしてください。
顧客の心をつかむマーケティングマインドとは?社員をマーケティング思考にする方法

一方で、顧客視点だけでマーケティングをしていくと、顧客の望むものに偏ってしまい、ありきたりな製品やサービスになってしまいます。モノや情報が溢れている今、エッヂが効いたプロダクトを世に出さなければ埋もれてしまうのです。

そのためには、自社だけが提供できる価値を生むための企業目線での製品開発やメッセージ、メディアの選び方を生み出す必要があります。

しかし、とんがりすぎると顧客や未顧客に理解されないので、同時並行で顧客の立場で物事を考えプロダクトと市場がうまくフィットする"さじ加減"を考えていくのです。
市場と製品のフィットをP M Fと呼びます。P F Mに関しては以下の記事で説明しているので参考にしてください。
→ PMF〜マーケティングの視点で考えるプロダクト・マーケット・フィット

このように、企業目線の4Pと顧客視点での4Cはどちらも重要なのです。

◾️ 4Pと4Cの統合方法〜バランスとさじ加減

この辺りを踏まえて、企業目線の4Pと顧客視点の4Cの考えるべきポイントを説明していきます。

1)プロダクト・カスタマーバリュー

プロダクトは直訳すると「製品やサービス」となります。自社の売りモノです。

プロダクトのポイントは、差別化です。まずは、自社だけができ、他社ができないことを自社目線で考えていきます。次に、単純な差別化ではなく「顧客から見た時に競合他社よりも価値がある」と認識されるか?を顧客視点で考えます。

次の自社プロダクトで、顧客の問題や課題を解決できているかどうか、を考えます。
顧客ニーズを満たすことが"顧客が感じる価値"なのです。

引越会社を例にとると、他より安い引越しという単純な違いを出すのではなく、顧客が困っている「面倒な大物家具の引き取りまでやってくれる引越し」といった具合です。

法人向けの営業を例にとると、数を多く購入すれば安くしてくれる融通がきく営業、ではなく「自社の顧客へのアフターケアまで先取りして提案してくれる営業」といった具合です。

製品や価格の違いだけでの差別化ではなく、顧客が求める解決策を提供するところまでできていて初めて選ばれるプロダクトになるのです。

2)プライス・コスト

プライスは、値決めすなわち価格設定です。まず、自社目線での値決めは、1個売ったらいくらの利益、マージンがいくら取れるのか?など、原価に利益をつみあげて値決めをしていきます。

そこに、市場での相場はどれくらいか、自社の独自性を加味すると、どれくらいのプレミアム価格にできるか、などの顧客視点を入れていくのです。

ダイソンの掃除機は、市場導入当時に抜群の吸引力とペーパーフィルターが不要なこと、デザイン性の高さといったプロダクトの独自性を通常の掃除機の価格に上乗せしていました。

この時のポイントは「いくらで売るか」から「顧客がそのプロダクトを買うときに支払う価値があるか?」という目線に置き換えることです。ダイソンの掃除機は、高くてもその値段を支払う価値があると判断する層に響いているのです。

3)プロモーション・コミュニケーション

プロモーションは、長く販売促進、広告宣伝とされてきました。しかし、SNSとスマホが普及し、単純な広告や販促は通用しなくなってきました。

そこで、売り込む手法、買わせるやり方 というような一方的な販売促進や広告ではなく、自社製品の良さを伝える、興味を持ってもらえるようにするための「顧客と双方向のコミュニケーション」としてとらえることが、必須なのです。S N S、A I時代には特に重要です。

一方通行の広告宣伝でうまくいかなかったペプシの「Refresh Project」の事例を紹介します。

ペプシの「Refresh Project」の事例

背景: 

2010年、ペプシはスーパーボウルの広告枠を取りやめ、約20億円を「社会貢献プロジェクト」に投資。消費者が選んだ社会貢献プロジェクトに資金を提供するというものでした。

施策: 

ソーシャルメディア上でキャンペーンを展開し、広報と広告を通じて知名度を向上させようとしました。

問題点: 

キャンペーンの中心は社会貢献プロジェクトであり、ペプシ自身の製品やブランドの魅力が消費者に伝わりませんでした。

結果: 

キャンペーンは話題になったものの、ペプシの売上や市場シェアは大幅に減少。一方的にメッセージを押し付ける形になり、消費者との関係構築にはつながりませんでした。

一方で、 双方向のコミュニケーションで成功した、ユニリーバのダブ(Dove)の「リアルビューティーキャンペーン」を事例を紹介します。

ユニリーバ ダブ(Dove)「リアルビューティーキャンペーン」

背景: 

多くの女性が広告で描かれる理想的な美のイメージに違和感を感じていました。

施策: 

ダブは「リアルビューティーキャンペーン」を立ち上げ、女性たちが自分自身をどのように見ているかについて対話を促進しました。

具体的な取り組み:

実在の女性を起用した広告で、SNSで「あなたにとっての美とは?」といったテーマで意見を募り、ユーザーが参加できる仕組みを構築。動画や投稿を通じて視聴者が感情移入できるコンテンツを提供しました。

結果:

キャンペーンは大きな共感を呼び、数百万のシェアやコメントを獲得。
ダブのブランド認知度と信頼性が向上し、売上にも直結しました。

ここで重要なのは、一方通行がダメ、というわけではない点です。ターゲット層の目に触れる広告は、やはり蓄積効果もあるし、ターゲットが見に行かないと目に触れないデジタル媒体だけでは、効果が限定的になってしまいます。

認知度を上げたい、話題性が必要というような時には、旧来からあるメディアの広告を組み合わせることで効果を出せるのです。

一方通行の広告宣伝と双方向のコミュニケーションの比較表を添付します。コミュニケーション施策の参考にしてください。

顧客コミュニケーション マーケティングの4P4C.002.png

4) プレイス・コンビニエンス

プレイスは、販売をする場所、例えば店頭、Webサイト、営業活動などを指してきました。

一方で、S N Sが普及し顧客が自分で情報を探し、どこで入手できるかを見つけられる時代です。

したがって、どこで売るか?という単純な販売先だけではなく、顧客が情報を探す段階から手を打つべきだ、という考え方をすべきなのです。顧客が検索した時に情報がわかり、もしわからなければ問い合わせられ、いつでも便利に買える場所を提供するといった具合です。顧客が購買や契約に至る一連の流れ、すなわちカスタマージャーニーの最初から最後までにメディアを仕込む、というイメージです。カスタマージャーニーに関しては、以下の記事で説明しているので参考にしてください。
→ 【事例と図解で解説!】カスタマージャーニーの作り方〜成果を出す作成ステップ、仮説の立て方、作成のポイント

チャネルを「売る場所」と考えて失敗したアメリカの老舗百貨店チェーン、シアーズの事例を紹介します。

アメリカの老舗百貨店チェーン、シアーズは長年にわたり店舗販売を中心とした戦略をとっていました。

オンライン販売の急成長に対応できず、ECサイトの開発が遅れてしまったのです。
店舗とオンラインが分断され、顧客はスムーズな購入体験を得られませんでした。

結果として、顧客がアマゾンやウォルマートなど、より便利なオンラインショッピングに流れて、シアーズは店舗数を大幅に削減し、最終的に破産申請、となりました。

一方で、ナイキは、顧客がオンラインとオフラインを自由に行き来できる仕組みを整えました。Nikeアプリを通じて、オンラインでの商品購入、店舗在庫確認、パーソナライズされたおすすめを提供、「オンラインで注文、店舗で受け取り」顧客はオンラインで注文し、最寄りの店舗で商品を受け取れる仕組みです。

NIKEは、顧客の購買履歴や行動データを活用し、パーソナライズされた体験を提供したのです。ナイキの旗艦店では、試着やカスタマイズサービス、インタラクティブなスポーツ体験を提供しました。

結果、オンライン売上と店舗売上が相互補完的に成長し、顧客ロイヤルティとブランド価値がアップしました。

このように、カスタマージャーニーに沿って顧客との接点すべてに施策を打つことを「オムニチャネル」と言います。A Iが浸透していく2025年には必須の考え方なので、ぜひあなたの会社にも取り入れてください。
オムニチャネルについては以下の記事で説明しているので、参考にしてください。
→ 【図解と事例!】オムニチャネルとは?マルチチャネルとの比較と営業マーケティングの課題別解決方法

売る場所としての流通対策と、オムニチャネルの違いを一覧表にしています。顧客にとって自社情報を便利に入手できるか、いつでも問い合わせできるかなどのチェックに使ってください。

マーケティングの4P オムニチャネル.png

◾️ マーケティングミックスの4Pと4Cの使い分けとバランス感覚

この記事を通して、マーケティングにおける4Pと4Cの重要性と、その使い方がわかっていただけたと思います。

重要なのは4Pは企業側の視点、と4Cの顧客の視点は、組み合わせて初めて効果が出るという点です。そのためには、顧客が何を望み、何を感じているのかを深く理解しなければなりません。

顧客理解を怠ると、どれだけ素晴らしい製品やサービスを提供しても、売り手側の自己満足に終わり、顧客に響かないものになってしまいます。しかし、顧客の視点をマーケティングに取り入れることで、売れる仕組みが自然に生まれ、企業の成長にもつながります。

ぜひあなたのビジネスに活かしてみてください。そして、顧客視点を軸にしたマーケティングの力で、あなたと顧客の間により強い信頼とつながりを築いてください。

執筆者

マーケティングアイズ株式会社 代表取締役 理央 周(りおう めぐる)
石油会社、家電メーカー、大型車両メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、法人営業にマーケティングを注入する社員研修を提供。 2013年より2023年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で23冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典 

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