事業戦略としてのOMO:戦略立案から施策実施効果検証までのステップ
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近年、デジタル化の波はあらゆる産業に変革をもたらしています。
特に、オンラインとオフラインはITの進化で統合され、企業はマーケティング活動上、さまざまな打ち手を打ってきます。そこから波及して、まったく新しい顧客体験を生み出しています。
このような環境の変化の中、生活者は日々の生活の中で、リアルとデジタルの差をあまり意識しなくなってきました。境目を感じずに行動するようになってきたのです。
これを一言で表すならば「OMO」。
Online Merges Offlineの略語です。
OMOは、顧客が商品やサービスに接するあらゆるステージでの、デジタルとリアル、オンラインとオフラインの、"つなぎ目"を意識することなく行動します。
企業側としては、この一連の顧客行動の各フェイズにシームレスな体験を提供し、顧客がスムースに購買できるようさまざまな努力をしています。
今やOMOは、企業と顧客との関係をより深化させることができる、重要な戦略となっています。
■ OMOとは〜定義
OMOとは、Online Merges Offlineの略語で、オンライン、すなわちネットと、オフライン、すなわちリアルを融合させて相乗効果を出すビジネスモデルを指します。
具体的には、オンラインのデジタル技術やデータを、店舗やDMなど、リアルなオフラインの場面に取り入れ、両方のメリットを組み合わせて、顧客とのコミュニケーションに生かす、という比較的新しいビジネススタイルです。
■ OMOによるシームレスな顧客体験
OMOについて考える時のキーワードは、"シームレス"です。
「シームレスに統合」というフレーズは、オンラインとオフラインの境界をほとんど感じさせない、流れるような顧客体験(=UX、ユーザーエクスペリエンス)を指します。特に小売業やサービス業界でのOMOの取り組みにおいて、このシームレス性が顧客の満足度やロイヤルティの向上に繋がります。そしてもちろんBtoCのみでなくBtoBやBtoX、CtoCなど、多くの業界にも当てはまる考え方です。
以下、顧客体験をシームレスに統合することの意義や特徴を説明します。
1. 一貫した情報提供
顧客が、オンラインで調べたり検索した商品やサービスの情報が、店舗でも同じように提供されることです。もちろん、その逆もまた然りです。
顧客はどこで情報を得ても、同じ内容の情報が手に入るため、商品への混乱や企業への不信感が生じにくくなります。
2. スムーズな購買体験
オンラインで商品を選び、店舗での試着や実物確認の後、その場でまたオンラインで購入を完了するなど、顧客は自分の都合や好みに合わせて購買プロセスを自由に選択できるようにしておきます。これにより、企業側は顧客が他で買ってしまう、という機会損失を減らすことができるのです。
3. マルチチャンネルのデータの活用
顧客のオンライン上での行動や購買履歴、サイトへの訪問履歴などのデータを一元的に管理・分析することで、更にパーソナライズされたサービスやプロモーションを提供することが可能になります。
4. 顧客が感じる"障壁"の低減
顧客は、オンラインとオフラインの間に時間的・空間的な障壁を感じることなく、自然にサービスを利用し続けることができるようになります。たとえば、モバイルアプリから店舗の在庫状況を確認し、あれば直接店舗へ向かうといった行動が無理なくシームレスにできるようになります。
5. 顧客のライフサイクルの延長
オンラインとオフラインを統合することで、顧客とのタッチポイントを増やすことができます。これにより、顧客のブランドとの関わりの深さや長さを延ばすことが期待できます。
このようにデジタルとリアルを「シームレスに統合」することで、企業は顧客にとっての利便性を大幅に向上させるとともに、長期的な顧客関係の構築が期待できるのです。
■ OMOを実践する際の注意事項
事業会社がOMOを実践する際に注意すべき点は多岐に渡ります。導入による成功は魅力的ですが、その実現には戦略的な視点と細部への注意が必要になります。
まず考えるべきは、戦略の全体像です。
OMOは、単なる戦術ではなく、ビジネス戦略の一部として位置づけるべきです。全体の戦略との整合性を確保し、他の部門との連携も密に行う必要があります。
以下に、特に重視すべき点を挙げます。
1. 顧客のニーズの理解
OMOは手段であって目的ではありません。どのようなオンライン・オフライン統合が、顧客にとって真に価値があるのかを深く理解する必要があります。OMOは技術のデモンストレーションではなく、顧客の問題解決の手段でなければなりません。
2. データの統合とプライバシーの保護
当たり前のことですが、オンラインとオフラインのデータを統合する過程で、顧客のプライバシーおよび個人情報の保護が必須です。また、メールアドレスや氏名などの合法的なデータ取得、およびその利用も必須です。
3. テクノロジーと組織の整合性
OMOを実現するためのテクノロジーを、現在の自社のシステムやプロセスと整合しなければなりません。同時に、費用対効果を考えた上での予算と担当者などの人的リソースも適切に配分する必要があります。
4. オフラインとオンラインの一貫性
ブランドのメッセージや価値提案、製品情報などがオンラインとオフラインで一貫していることを確保することが重要です。一貫性のないメッセージが顧客に届いてしまうと、同じブランドからのメッセージだと認識されないのです。こういった混乱を招かないようにするための統一性が求められます。
5. 社員のトレーニングとサポート
社員全員がOMOをやる意義とその仕組みを理解し、顧客に対して適切にサポートできるよう、社員教育とサポートが必要です。
6. 測定と改善
OMOは導入して終わりではありません。戦略の成果を測定するためのKPIを設定し、検証を繰り返して継続的に改善していけるプロセス構築が必要です。
7. シームレスな体験の設計
オンラインとオフラインの間の障壁を取り除き、真にシームレスな体験を提供するためには、顧客中心で設計する必要があります。デザイン思考のようなアプローチが適切です。
OMOの取り組みは、多岐に渡る要素が複雑に絡み合うため、全体の戦略的な視点と、具体的な実施における細部への注意が平衡良く必要です。このバランスが取れた戦略と実行力が、OMOの成功への鍵となるでしょう。
■企業が仕掛けるOMOの事例
OMOを自社に取り入れて活用してきた企業は、これまでにも多くあります。
UNIQLOの一部店舗では、顧客がアプリを使用して、店舗内の商品在庫を確認でき、その場でも買えるし、もちろんオンラインで注文もでき、その後、店舗で受け取ることもできます。
私もよく使いますが、Starbucksでは、アプリで注文・支払いを済ませれば、待たずに店舗で受け取れる「Mobile Order & Pay」サービスがあります。
■IKEAのIKEA Placeアプリ
IKEA Placeというアプリでは、AR(拡張現実)技術を使い自宅にいながらIKEAのインテリアを自宅に配置したらどうなるかをシミュレートすることができます。
IKEAのOMOのアプローチは、デジタル技術とフィジカルな店舗体験を融合させ、顧客に新しいショッピング体験を提供しています。以下に、その詳細な事例をいくつか挙げてみます。
このARアプリを使うと、ユーザーは自宅で仮想的にIKEAの家具を配置してみることができます。
スマートフォンやタブレットのカメラを使い、部屋の空間に仮想的に家具を置いてみることで、サイズやデザインが実際の空間にどのようにフィットするかを確認することができるのです。
1. オンラインでの予約と店舗での受け取り
顧客はオンラインで商品を選び、最寄りのIKEA店舗で受け取ることができます。これにより、顧客が実店舗にショッピングに行くという手間を減らし、効率的に購入することが可能になります。
2. インタラクティブな店内体験:
一部のIKEA店舗では、タブレットを使った商品検索ステーションが設置されています。これにより、顧客は店舗内で商品の詳細情報や在庫状況をリアルタイムで確認することができます。
3. デジタルカタログ
IKEAは紙のカタログも提供していますが、デジタル版カタログも用意されています。このデジタルカタログは、追加の情報やビデオなどのマルチメディアコンテンツを含んでいるので、より深い商品情報を提供します。
これらの取り組みを通じて、IKEAはオンラインとオフラインの体験をシームレスに統合し、顧客のショッピング体験を向上させています。
■OMOを自社に取り入れるには
ではこのOMOのような、新しい手法、ビジネスモデルや仕組みを、自社に取り入れるには、何をすればいいのでしょうか?
まずすべきは、すぐに手法を取り入れようとする前に、自社の顧客・ターゲット層のニーズにあっているか、自社のコミュニケーション上必要か?を、ゼロベースで考えてみることから始めます。
そして、必要だとなったら自社のビジネスモデルに組み入れるためのシミュレーションをします。
まずは、自社の製品やサービスが顧客に届くまでのバリュ―チェーンを見直してみるのです。
次に、そのバリューチェーンに沿って、カスタマージャーニーを合わせて見直してみるのです。この時重要なことは、今は自社でやっていないけれど、もしあれば顧客が喜ぶであろう施策を書き出してみることです。
同時に、Google検索やChat GPTのような対話型AIで他社事例を調べてみましょう。
顧客の潜在ニーズに訴えることができ、かつ競合他社がやっていない施策があれば、実施の検討に移る、というステップです。
この段階で、見込まれる売り上げやコスト、利益を計算します。
他社事例に関しては、OMOの成功・失敗事例をどちらも参考にしていきます。
フレッシュコスメのLUSHは、うまくOMOを取り入れている成功事例といえます。
LUSHのサイトのトップページでは、全てのカテゴリーの商品情報が、
カラフルに掲載されています。しかも、次のページに行かなくても、
全て見られるように、トップページで、すべてのカテゴリーを網羅しています。そして、店舗で実際の香りや質感を確認してから、その場またはオンラインで購入できるのです。
一方で、失敗事例も調べてみて、想定されるリスクをあらかじめ予測しておくといいでしょう。
たとえば、ある大手アパレルブランドが、オンラインのデータをうまくオフラインに活かせず、在庫を多く抱えてしまったり、顧客が混乱するような情報をだしてしまった、というような事例もありました。
■自社への当てはめを考える
こういった準備をしてから、具体的に何をすればいいのか?を、立案していきます。
その時の出発点は、「顧客の潜在ニーズ」の解消や充足です。
飲食業の宅配サービス部門新設する時には、注文や受け取りの待ち時間を減らすために、電話だけでなくオンラインで注文できるようにする、とか、デリバリーだけでなく、実店舗での受け取りや試食もできるようにする、といった具合です。
同じように、雑貨店ビジネスでも、オンラインで商品を検索・予約し、店舗で実物を手に取って購入できるようにする、試せるようにする、などができますよね。
イベントやセミナー開催などでも、オンラインで座席を選んで予約・購入し、
リアルの会場とオンラインの、両方で参加できるようにすることも、OMOになります。
「OMOを取り入れよう」と考えるだけではなく、常に顧客の困り事や潜在的な課題をどう解決するかを考えて、自社にとって必要なら取り入れる、という思考のステップを踏むことが大事です。
■MIYASHITA PARK内の注目すべき店舗「THE [ ] STORE」の事例
もう1つ、OMOの新しい形を生み出しそうな事例を紹介します。
三井不動産は、EC基幹システム「ecforce」を提供するSUPER STUDIOと組んで、東京渋谷のMIYASHITA PARK内の商業施設「RAYARD MIYASHITA PARK」に、「THE [ ] STORE(ザ・ストア)」をオープンしました。
MIYASHITA PARKはもともと、渋谷のランドマークとして注目されていて、次々に新しい打ち手を打ってくる"場"です。
その中に位置する「THE [ ] STORE」は、とても興味深い取り組みをしています。
7月11日のITmediaビジネスの記事によると、
(以下、記事引用)
店舗名の「THE [ ] STORE」の[ ] 内は、出店するECブランド名を入れる想定だ。ECブランド事業者は週単位でリアル店舗への出店が可能となり、接客面では「THE [ ] STORE」常駐スタッフが対応するため、人員確保が不要となる。
(引用以上)
とあり、オンラインとオフラインの境界を、あえて"曖昧に"することで、逆に革新的なイメージを醸成させています。
MIYASHITA PARKのサイトによると、この「THE [ ] STORE」のコンセプトは、行くたび新しいブランドに出会えるショップとのこと。
さらに、以下のように説明がしてあります。
"行くたび新しいブランドに出会える"がコンセプトの次世代型ショップです。数週間に1度ブランドが入れ替わり、行くだけでワクワクするような世界観を楽しめます。普段リアル店舗で出会うことができない人気ECブランドのアイテムを展開。きっとあなた好みのブランドや商品に出会えます。
この店名の中にある、[ ]の部分は、
顧客に向けて「ご自身の好きなXXを入れてください」
というメッセージなのでしょう。
その意味では、とても斬新な、
まさに新しいショッピング体験の形を、
生もうとしているように見えます。
この「THE [ ] STORE」は、さらにOMOを発展させ、顧客に問いを投げかけている点が面白いと言えます。
顧客にしてみれば、自分の趣味嗜好にマッチしたブランドが置いてあるかもしれないし、新しいブランドとの予期せぬ出会いがあるかもしれないという楽しさを期待できます。
多くのデベロッパーは、集客力のあるユニクロのような、ナショナルブランドや、人気の飲食店を自社のショッピングモール内に入れ集客をはかります。
今回のこの「THE [ ] STORE」は、「何が入るかわからない楽しさ」を持つ店をOMOの仕組み込みで提供するという、今までとは逆のアプローチの店舗と言えます。
その意味では、より顧客に対して、新しい価値提供を狙う取り組みに見えます。
■まとめ
OMOは、ネットが浸透し進化し続ける今、ビジネスシーンで必須となる考え方です。
一方で、IT、DX、新しい手法を取り入れる前に、まず必要なのは、顧客の立場と課題を理解し、どのように顧客の問題を解決するか、という戦略をまず立てることが重要です。
その意味では、今こそ顧客課題を明確にして、顧客の本音を理解した上で、自社のビジネスモデルにOMOをどう取り入れるか、今一度考える好機といえます。