2025.01.23
人財開発

顧客志向とは?:顧客中心主義の企業文化を構築するステップ

◾️ 顧客志向とは?

顧客志向(Customer Orientation)とは、企業がそのビジネス戦略や運営を行うにあたって、顧客のニーズや期待を中心に据える考え方です。このアプローチでは、企業は製品やサービスを提供する際、単に市場に何を売るかではなく、顧客が何を必要としているか、どのような価値を求めているかに焦点を当てます。

目次
  1. ◾️ 顧客志向とは?
  2. ◾️ なぜ顧客志向が重要なのか?
  3. ◾️ 顧客志向のキーワード
  4. ◾️ 顧客志向と販売志向
  5. ◾️ 顧客志向を生む顧客中心主義の文化:Amazonの事例
  6. ◾️ 顧客志向をはばむ社内志向とは?
  7. ◾️ 顧客志向の企業になるステップ
  8. ◾️ まとめ 

◾️ なぜ顧客志向が重要なのか?

今のビジネス環境において、顧客志向が必要とされる理由はいくつかあります。

競争の激化:

市場には多くの企業が存在し、製品やサービスの選択肢が増えています。このため、顧客の期待に応えることが、競争上の優位性を確保する重要な要素となっています。

顧客の情報アクセスの向上:

インターネットやソーシャルメディアの普及により、顧客は製品やサービスに関する情報を簡単に手に入れることができます。これにより、顧客はより情報に基づいて意思決定を行うようになり、企業はこれらの知識豊富な顧客のニーズに応える必要があります。

顧客の期待の変化:

顧客の期待は絶えず変化しています。現代の顧客はカスタマイズされた経験や高品質のサービスを求めており、企業はこれらの期待に応じたサービスを提供する必要があります。

顧客ロイヤルティの重要性:

新規顧客を獲得するコストは既存顧客を維持するコストよりも高いとされています。顧客志向のアプローチは、顧客の満足度とロイヤルティを高めることで、長期的な顧客関係を築くのに役立ちます。

ソーシャルメディアの影響:

ソーシャルメディアによって、顧客の声は以前よりも大きな影響力を持つようになりました。肯定的な顧客体験は良い評判を生み出す一方で、否定的な体験は瞬く間に広まり、企業の評判を損なう可能性があります。

データ駆動型の意思決定:

大量の顧客データの利用が可能になった現代では、企業は顧客データを活用して顧客志向の意思決定を行い、よりパーソナライズされたサービスを提供することができます。

これらの要因が後押しをして、顧客のニーズに応えることが不可欠になっているのです。

◾️ 顧客志向のキーワード

顧客志向の重要性を示すキーワードは"顧客のわがまま"です。

I Tの進化やA Iの浸透で、顧客は望むものをより素早く便利に手に入れられるようになりました。思うようにできるようになり、顧客がどんどん"わがまま"になっているのです。顧客の欲求には上限がないので「もっと便利な方がいい」とこのわがままは加速します。

この動きに拍車をかけているのが、ソーシャルメディアによる発信です。

ソーシャルメディアによって、顧客の声が大きな影響力を持つようになりました。顧客は情報を探し、購買を決める時にカスタマーレビューなどの「顧客の声」を参考にします。SNSでは多くのユーザーが発信したコンテンツ、U G C(User Generate Contents)が投稿されていて購買決定に影響を与えています。

パーソナライズも、顧客のわがままを後押しする重要なキーワードです。

A Iを使うデジタルマーケティングで、大量の顧客データを使い、より高度なパーソナライズされたサービスを提供できるようになりました。

これらにより、顧客が求めるレベルが高くなっているため「顧客の声を聞きその通りにやればいい」という受動的な顧客志向では埋もれてしまいます。

しかし、顧客がわがままになっているのは企業にとってはチャンスなのです。
なぜなら、顧客の「期待以上」の価値を提供できれば顧客に選ばれる理由になるからです。

◾️ 顧客志向と販売志向

顧客志向になるには、どうすればいいのでしょうか?

まず、顧客志向(Customer Orientation)と対になる、「販売志向(Sales Orientation)」について考えてみます。

顧客志向と販売志向.png

販売志向のアプローチでは、「製品の販売量」を増やすことにフォーカスします。販売戦略とか、製品をプロモーションし、できるだけ多くの製品を売ることに重点を置きます。

多くの場合、顧客の実際のニーズとか、長い目で見た顧客満足が二の次になることがあります。顧客のニーズや期待を中心に据える「顧客志向」とは対照的です。

顧客志向と販売志向の違いを、花や観葉植物を売る人に例えてみると、顧客志向は「園芸家」です。

園芸家は、植物が健康的に成長し、花や実をつけるために、花や植物ごとの特徴やニーズをよく理解しています。植物ごとに異なる水の量、日光の量、肥料の種類、土の種類を考え、それぞれの植物が最適な環境で育つように努力します。例えば、バラが多くの日光と特定の土壌を好むことを知っているので、一番いい環境を提供します。彼らは定期的に植物の状態を観察し、必要に応じてケアを調整し、植物が健康的に成長し、長期間にわたって美しく保たれるように努力します。

このアプローチは、顧客志向と似ています。顧客志向の企業は、顧客のニーズや好みを理解し、それに応じて製品やサービスをカスタマイズします。そして、顧客との長期的な関係を築くために、彼らの満足度を高めることに注力します。

一方で、販売志向は「露天商」です。

露天商は、できるだけ多くの商品を短期間で売ることに焦点を当てます。目標は、顧客のニーズや満足度よりも、その時の売上の最大化です商品が誰にどう使われるかよりも、多くの商品をどれだけ早く売り切るかが重要です。

これは、短期的な売上に重点を置き、顧客の深いニーズや長期的な関係構築を二の次にする販売志向のアプローチに似ています。

顧客志向が顧客の個別のニーズや長期的な満足度に焦点を当てているのに対し、
販売志向が短期的な成果に重点を置いていることを示しています。

商売は、買ってもらってからが重要です。顧客と長くいい関係を続けられることが大事なのです。

顧客志向の目線で、顧客が抱える問題を見つけ出し、顧客の課題を解決することが大事なのです。

そのためには、顧客を深く理解して、見えないニーズまで汲みとり、顧客の一歩先を考えた上で、半歩先くらいを提案できるようになれば「あなたの会社いいね」と選ばれるようになるのです。

社員1人1人が顧客志向になることで実現するのです。

◾️ 顧客志向を生む顧客中心主義の文化:Amazonの事例

私がAmazonにいた頃に学んだことの1つに「顧客中心主義:カスタマーセンリック」という社内文化があります。

  • 真ん中にいるのは顧客だ
  • いつも顧客をみんなで見ていよう
  • 顧客が喜びそうなことがあればすぐにやろう
  • 不便に感じていることがあればすぐに治そう

という社内文化です。初期のAmazonでは、これを社員全員が"自然にやっている"状況で、社内に浸透していました。

顧客中心主義によって、さまざまな顧客志向のアイディアが自然発生しました。当時まだ競合がやっていなかった「ほしい物リスト(=Wish List)」をサイト上に作ってパーソナライズしたり「この本の読者って著者の話を深く聞いてみたいはずだからインタビューとってくるよ!」などという顧客志向のアイディアが自然に出てくる企業文化だったのです。

しかし、「顧客中心主義になろうよ」と社長から言われても、すぐになれません。
号令かけるだけではできないのです。社員の本音は「そうは言っても難しいよね」というのが本音です。

上司から言われてやるというような外発的な動機ではなく「自分からやりたい」と思える"内発的な動機づけ"があって初めて湧き出てくるものですし、続かないのです。

当時のAmazonでは年に一回、全員の手という意味のオールハンズという全員参加の会をリアルでやっていて私たち各部門の責任者が、今の取り組みや今後について共有したりしていました。もちろんそのあとは懇親会です。

また、日本でもアメリカでも忙しい年末になると各部署から毎日1人ずつが物流倉庫に行って出荷を手伝っていました。

このような全員での取り組みによって社内に一体感が出て、顧客に何ができるのか?という姿勢につながっていきました。

顧客中心主義は企業文化です。企業文化とは、一過性の社風とは異なり"知恵と工夫"の積み重ねなのです。

◾️ 顧客志向をはばむ社内志向とは?

顧客志向になるには、社内文化を顧客中心主義にしていく必要があります。
顧客中心主義になるために、まずその反対の「社内中心文化」と比較して考えてみます。

社内中心文化では、企業の内部プロセスや製品の特性が中心となります。

企業自身の方針や製品の技術、社内のプロセスを、顧客のニーズや要望よりも優先するため、市場のニーズや顧客のフィードバックに対応するのが遅くなります。また、顧客ニーズの変化にも気づけず、製品やサービスの革新が不足しがちです。

そもそも、顧客との双方向のコミュニケーションが足りないため、市場の声を反映した意思決定が行われにくくなります。

そして、長期的な顧客関係の構築よりも、短期的な売上や利益アップに重点を置く傾向が出るため、市場での競争力が低下するリスクがあります。

社内中心文化は、画家のような芸術家に似ています。自分の技術やスタイルに自信があり、
作品がどれほど素晴らしいかに集中しています。しかし、観客の反応や好みを無視し、自分のビジョンや好みだけで作品を創り続けます。結果として、彼のアートは広く受け入れられず、観客とのつながりもなくなってしまいます。

社内中心主義になる理由は、

  • 過去の成功体験に固執してしまうこと
  • 経営陣やリーダーが内部プロセス、効率、コスト削減など内向きの問題に重点を置く
  • 部門間の連携不足やコミュニケーションの不足での「サイロ(Silo)」化

が挙げられます。
こうなると、市場の変化への適応ができず、リスク回避・安全志向になってしまいます。

◾️ 顧客志向の企業になるステップ

ではそれらを打破して顧客志向になるにはどうすればいいのでしょうか?

社内中心文化を打破し、顧客志向の文化に変わるためには、組織全体で意識的かつ戦略的な取り組みが必要です。

先ほども書いたように、社風ではなく文化として醸成する必要があります。社風と違い、文化は根付き進化していきますし、一度できたら揺る技ません。

顧客志向の社内文化を段階的に構築していくためのステップを説明します。

1. トップマネジメントのコミットメント

事業戦略と位置付ける:
変革はトップマネジメントから始まります。経営陣が顧客中心の文化の重要性を理解し、それを推進する姿勢をトップマネジメントが顧客中心主義の重要性を深く理解し、その姿勢を明確に示すことが必要です。

行動で示す:
例えば、顧客に関するミーティングへの積極参加や、フィードバックを基にした戦略変更を実施します。

2. 顧客の声を組織の意思決定に反映する

フィードバックの収集:
顧客アンケート、レビュー、SNSのコメントなど、顧客の声を定期的に収集します。

フィードバックの分析:
顧客データを整理・分析し、ニーズや不満を明確化します。

具体的な行動:
顧客からの意見を製品開発やサービス改善に活かすプロセスを整備します。

3. 社内コミュニケーションの強化

オープンな対話の仕組み:
社員が上下関係を気にせず意見交換できる「対話の場」を設けます。例: 定期的な社内ミーティング、クロスファンクショナルチームの活動。

サイロ化の防止:
部門間の壁を取り払い、部門横断的なコミュニケーションを推進します。例: 共同プロジェクトや交流イベント。

先ほどのAmazonの事例に加えて、以下のような成功している企業を参考にしてみるのが有効です。

Googleでは、TGIF(Thank God It's Friday)という全社員が参加する週次ミーティングを開催しています。大手自動車メーカーでは、異なる専門分野の社員が集まるクロスファンクショナルチームを設け、複雑な問題解決に取り組んでいます。

4. KPIの見直しと目標の設定

顧客中心のKPIを導入:
顧客満足度(CSAT)、ネットプロモータースコア(NPS)、顧客ロイヤリティなどの指標を設定します。

進捗の定期確認:
KPIを定期的に評価し、顧客志向が十分に実現されているか確認します。

5. 顧客体験を視覚化する

顧客ジャーニーマッピング:
顧客が製品やサービスを利用するプロセスを可視化し、改善点を特定します。

タッチポイントの最適化:
顧客との接点(購入、問い合わせ、アフターサポートなど)を最適化する具体的な行動を計画します。

6. 社員教育と意識改革

顧客志向に関する研修:
顧客満足やロイヤリティの重要性を教える研修を実施します。
顧客の期待を超える方法を学ぶワークショップを開催します。

顧客視点の習慣化:
日々の業務の中で顧客視点を意識する習慣を形成します。

7. 社内文化の見直しと持続可能な仕組みづくり

定期的な文化のチェック:
社内文化を定期的に見直し、顧客中心主義が維持されているか確認します。

成功事例の共有:
顧客志向がもたらした成果や改善例を社内で共有し、全員のモチベーションを高めます。

文化を維持する仕組み化:
社内文化の変化を永続的にするための仕組み(例: 顧客志向チームの設置)を整えます。

8. テクノロジーの活用

顧客データの活用:
CRM(顧客関係管理)ツールや顧客分析ツールを導入し、データに基づいた意思決定を促進します。

情報共有の効率化:
SlackやMicrosoft Teamsなどのツールを活用して、部門間で顧客情報を共有します。情報を送るだけではなく「見てくれた?」という念押しやリアルでの共有など双方向でのコミュニケーションを入れていくと効果的です。

これらのステップを意識的に実施し、組織全体で顧客志向を徹底することで、顧客満足度の向上と市場での競争優位性を確立することができます。

◾️ まとめ

顧客志向になる、ということは施策でも戦術でもなく企業文化を変えることです。
社内の双方向のコミュニケーションや顧客データの共有の仕組みなどで、顧客中心の文化を醸成することが鍵になります。

一方通行で情報を発信するだけではなく、社内の信頼関係を築き、多様なアイデアや意見が自由に交わされる企業文化を育むことが重要です。そして、このようなオープンで協力的な環境は、最終的に顧客にとって価値のある製品やサービスを生み出すための基盤となるのです。

執筆者

マーケティングアイズ株式会社 代表取締役 理央 周(りおう めぐる)
石油会社、家電メーカー、大型車両メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、法人営業にマーケティングを注入する社員研修を提供。 2013年より2023年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で23冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典 

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