2025.01.21
人財開発

AI時代のマーケティング人材とは?〜社内マーケター候補の選抜基準、選考方法、育成ステップ

この記事では、AI時代に必要なマーケティング人材について解説します。

    目次
  1. ◾️ 【人事担当者必見!】A I時代に必要なマーケティング人材とは?
  2. ◾️ A I時代のマーケティング人材とは? 
  3. ◾️ マーケティング人材を社内で選抜する方法
  4. ◾️ 社内での人材育成ステップ
  5. ◾️ まとめ 

◾️ 【人事担当者必見!】A I時代に必要なマーケティング人材とは?

McKinsey Global Instituteの調査によると、2030年までに世界の労働力の約15%、つまり約3億7500万人が職業の転換を迫られると予測されています。この変化の中心にあるのがAIです。

「A Iが人間の仕事に取って代わる」ということは、以前から言われていますが、こうして数字で見るとあらためてそのボリュームの大きさがわかります。いうまでもなく、A Iによる変化はビジネスにも大きな変化をもたらします。

変化の時代に自社の優位性を切り開くエンジンになるのが人材です。これまで人間が行ってきた多くのマーケティング業務、例えばデータ分析、広告配信の最適化、コンテンツ生成の一部などが、AIによって自動化、効率化できるようになりました。

この変化を脅威ではなく、チャンスと捉えるべきなのです。AIが業務を効率化する一方で、人間でなければできないより重要な仕事が生まれます。

それは「共感の創造」です。

AIはデータに基づいて最適な施策を提案できるようになりました。しかし、その前に準備すべき、顧客の感情や潜在的なニーズの理解、心を動かすストーリーを紡ぎ出す戦略構築は、まだ人間でなければできません。

例えば、ある企業がAIを使ってターゲット顧客の属性を分析し、最適な広告を配信したとします。しかし、その広告が顧客の心に響かなければ効果は限定的です。ここで必要となるのが、顧客の背景にあるストーリーや感情を理解し、共感を呼ぶメッセージを作り出す人間のマーケターの力なのです。

◾️ A I時代のマーケティング人材とは? 

このマーケティング力はマーケティング部門だけに必要な力ではありません。営業部門やサービス部門など、顧客に接する可能性がある全ての社員に必要になる力なのです。

AI時代に求められるマーケターはどのような素養やスキルを持つ人材なのでしょうか?

共感の生成にシフトする時代に求められることは、単なる分析力や知識だけではありません。スキルも必要ですが、重要なのは以下の3つの素養、取り組み方やあり方、です。以下に、3つの素養と事例を紹介します。

AI時代のマーケターに必要な要素.png

共感力:

まずは、顧客の立場に立って考え、顧客の心理や感情を理解する力です。
花王のアタックZEROは「落ちにくい汚れ」という主婦の悩みに深く共感し、開発された洗剤です。従来の洗剤では落ちにくかった「しつこい汚れ」に着目し、何度も洗濯する手間を省きたいというニーズに応えました。

共感ポイントは、主婦の家事における負担、特に洗濯における「落ちにくい汚れ」への不満を深く理解できたことです。その背景には、「何度も洗うのは時間も手間もかかる」という潜在的なニーズを捉えたことがありました。

結果として「「落ちにくい汚れもゼロへ」というキャッチコピーで、多くの消費者の共感を呼び、大ヒット商品となりました。単に汚れを落とすだけでなく、消費者の時間と手間を削減するという新しい価値を提供したことが成功要因と言えます。

創造力:

独創的なアイデアを生み出し、顧客の心を動かすストーリーを紡ぎ出す力。

レッドブルは、エナジードリンクという新しいカテゴリーを創造し、独自のマーケティング戦略で成功を収めました。単にドリンクを販売するだけでなく、エクストリームスポーツや音楽イベントへのスポンサードを通じて、ブランドイメージを確立しました。

創造ポイントは、エナジードリンクとエクストリームスポーツを結びつけるという斬新なアイデアにありました。「翼をさずける」というキャッチコピーは、人々の挑戦心や可能性を刺激し、ブランドイメージを確立したのです。

結果としてレッドブルは、単なる飲料メーカーではなく、「挑戦」や「エネルギー」を象徴するブランドとして認知されるようになりました。従来の飲料メーカーとは異なる、独創的なマーケティング手法で市場を拡大できたのです。
この事例は、既存の枠にとらわれない独創的なアイデアが、ブランドの成功に大きく貢献することを示しています。

コミュニケーション力:

社内外の関係者と円滑に連携し、メッセージを効果的に伝える力が重要です。

Appleの製品発表会は、単なる新製品の紹介ではなく、聴衆を魅了するプレゼンテーションとして知られています。スティーブ・ジョブズ氏をはじめとするプレゼンターは、製品の機能だけでなく、その背景にあるストーリーやビジョンを熱意持って伝えました。

コミュニケーションポイントは、製品の魅力を最大限に引き出す、洗練されたプレゼンテーションです。話し方というような技巧というよりも、聴衆の感情に訴えかけるストーリーテリングで、製品そのものでなく「製品を通じて実現できる未来や可能性」を明確に提示したのです。

結果として、製品発表会自体が、大きな話題となり、メディアやSNSで広く拡散され、製品への期待感や購買意欲を高めることに成功しました。この事例は、効果的なコミュニケーションが、製品やブランドの価値を最大限に伝える上で非常に重要であることを示しています。

これらの力は、AIには代替できません。これこそが、AI時代に人間が担うべき、そして最も価値のある仕事なのです。

◾️ マーケティング人材を社内で選抜する方法

ここ数年の市場の激変によって、法人ビジネスを中心に以下のようなニーズが高まっています。

  • マーケティング部門を作りたい
  • 売り込みから提案型の営業スタイルにしたい
  • 顧客候補からの問い合わせが欲しい

このような課題を解決するには、社内でA I時代のマーケティング人材を選抜し、育成をするというステップを踏むのが効果的です。

まずは、社内選抜のステップから説明をします。社外からの採用にも当てはめることができるので参考にしてください。
営業部門の人材から適性を見出したいときは以下の記事を参考にしてください。

→ 営業部門でマーケティングに向いている人材とは?:マーケターの適性

AI時代のマーケターの選び方.002.png

選抜方法:

上司やチームとしての推薦制度は「やらされ感」と外発的動機が生まれがちです。「やりたい」という内発的動機による"強いモチベーション"を持った人材は、自主的に学び、積極的に業務に取り組むため、高いパフォーマンスを発揮します。したがって、公募制をお勧めします。
自らキャリアを切り開こうとする意欲のある人材は、組織へのエンゲージメントも高く、定着率向上にもつながります。

選抜基準:

まず「素直さを持つ人材」を選びたいところです。「素直さ」とは、上司や経営者の言うことを素直に鵜呑みにする、という意味ではありません。自分にとって未知の分野や、異なる意見を、偏見なく一旦は聞く、という意味での"素直"です。

AI時代のマーケターに必要な素直さとは?.png

以下に、具体的な素直さの素養について紹介します。

1. 顧客の声に耳を傾けられる

先入観や偏見を持たずに、顧客の言葉をそのまま受け止め、深く理解しようとする力です。顧客のニーズや不満、要望など、顧客からのフィードバックを素直に受け止め、改善に繋げることができるため、顧客満足度向上に貢献するのです。

2. 新しい情報や知識を吸収できる

変化の激しいマーケティングの世界では、常に最新の情報やトレンドをキャッチアップする必要があります。素直な人材は、変化に素早く対応し、新しい知識を積極的に取り入れることができるため、常に最新のマーケティング手法を活用できます。

素直な人は、自分の考えに固執することなく、新しい情報や知識を柔軟に受け入れることができます。

3. 周囲の意見を尊重し、協調性を発揮できる

マーケティング活動は、社内外の様々な関係者との連携が不可欠です。
素直な人は、自分の意見だけでなく、周囲の意見にも耳を傾け、尊重することができます。

他者の意見を素直に受け入れることで、より良いアイデアや解決策を生み出すことができ、チーム全体のパフォーマンス向上に貢献します。

4. 失敗から学び、成長できる

マーケティング活動には、試行錯誤がつきものです。素直な人材は、失敗を恐れず、積極的に挑戦し、失敗から教訓を得て、成長することができます。

失敗を隠したり、言い訳したりすることなく、素直に原因を分析し、改善策を講じることで、同じ失敗を繰り返すことを防ぎます。

5. 変化への適応力が高い

市場環境や顧客ニーズは常に変化しています。素直な人材は、変化をチャンスと捉え、新しい状況に合わせた戦略を立案し、実行することができます。

素直な人は、変化を柔軟に受け入れるので、変化を恐れず、積極的に変化に対応することで、常に最適なマーケティング活動を展開することができます。

選抜するときに、過去の実績も重要ですが、上記の素直さに加えて、先ほど述べた「共感力」「創造力」「コミュニケーション力」といった"質=中身"を評価する選考プロセスを設けることが重要です。顧客視点での提案を求める課題や、チームでのワークショップなどを実施するといった具合です。

データ分析の基礎知識、市場調査の手法、マーケティングの一連の流れの理解も必要なスキルですがこの分野は選抜後の教育でカバーできます。

◾️ 社内での人材育成ステップ

人材育成は、一夜では達成できないため、段階的に行うことが重要です。

AI時代のマーケターの育成ステップ.png

ステップ0:教育プログラムの全体を設計する

まずは、育成プログラムの全体を設定することから始めます。

最初に固めるのは、人材育成の到達目標です。会社全体の目標と戦略から必要なマーケティング人材像をはっきりさせます。

マーケティングは広い範囲をカバーするので、分野を指定するのがいいでしょう。例えば、マーケティング計画の策定を目標にするのであれば、「1年間の研修を通して顧客視点で、マーケティング・営業企画を作成・実践し、成果を出せる人材になる」などビジョンを掲げます。

次に、全体を設計します。基礎知識を養うために、顧客視点のマーケティング基礎を学ぶための研修を行い、その後実務を通じた学習、例えば社内プロジェクトでの実務体験を通じて、学びを深める機会を提供するといった具合です。

ステップ1:本当のマーケティングの理解 

全体を決めたら次は、育成計画の内容を決めていきます。研修プログラムの内容に加えて、成長を段階的に測定する指標を設定する、研修後のフィードバックと実践的なアドバイスを提供するなどが効果的です。

マーケティングは、市場調査やデジタルマーケティングなどの手法だけを指すのではありません。顧客理解に始まり、市場機会の見つけ方、戦略の構築、手法の取捨選択、実践、効果の検証の"一連の流れ"で考えることが重要です。この基本の流れをまずは認識することから始めます。

この段階での目的な、企業目線から顧客目線になることの大事さを腹落ちすることです。

最高の課題解決は、原理原則にあります。自分なりにマーケティングを理解していると思っていても、再度基本を固めることで新しい発見をさせることを促します。

ステップ2 実践を通じ成長を促す

社内教育では、机上での学びに加えて、実践的な内容を入れると効果的です。営業との顧客インタビューによる気づきの発見をレビューするとか、そこからカスタマージャーニーマップを作成するなどが効果的です。

実際のマーケティングプロジェクトに参画させ、OJTを通じて経験を積ませます。メンター制度を導入し、経験豊富な社員がサポートすることも有効です。

研修のようなオフJ Tと実践形式のOJTをミックスさせる教育は効果的です。マーケターの成長には、業務での成功や失敗の経験を、社内に当てはまる原則やフレームワークに落とし込み、再発防止や以降の成長に繋げることが重要だからです。

経験値(=具体)と社内への当てはめ(=抽象)を行ったり来たりしながら、次のステップにつながる応用力を高め、ひいては社内全体のマーケティング力を上げることを目指します。

具体と抽象の事例:

具体的な経験(具体): 例えば、ある商品のプロモーション施策を実行し、その結果、売上が目標に達しなかったとします。これは具体的な経験です。

抽象的な分析(抽象): なぜ売上が目標に達しなかったのかを分析します。ターゲット顧客の選定が適切でなかったのか、メッセージが響かなかったのか、プロモーションのタイミングが悪かったのかなど、要因を分析し、一般的なマーケティングの原則(例:顧客セグメンテーション、コミュニケーション戦略、タイミング戦略など)に照らし合わせて考察します。

抽象から具体への応用(具体): 分析結果を踏まえ、次回のプロモーション施策では、ターゲット顧客を再定義し、より響くメッセージを作成し、最適なタイミングで実施するという具体的な改善策を立てます。

ステップ3:チーム力を上げる仕組みを構築する

失敗を恐れず、常に学び続ける文化を醸成します。成功事例だけでなく、失敗事例も共有し、そこから教訓を得ることで、チーム全体のマーケティング力を向上することの重要性を認識することが重要です。知識を集めるのではなく、知恵を絞り、工夫しながら課題解決できることを奨励します。

この段階では、学びというより実務として取り組むことを推奨します。

以下に、プロジェクトでの事例を紹介するので参考にしてください。

  1. 小規模なチームを編成し、具体的な課題を解決するプロジェクトに取り組む
  2. チームの目標として「解決策の実行可能性」「顧客視点の提案」「データに基づく意思決定」を設定する
  3. プロジェクト中には役割を明確に分担し、リーダー、アナリスト、クリエイターなどの役割を持たせる
  4. プロジェクト終了後に結果をレビューし、成功点と改善点をフィードバックする
  5. 結果を共有し、改善点や成功事例を社内で発表する

◾️ まとめ

AIは強力なツールですが、それを使いこなすのは人間です。AI時代だからこそ、共感力、創造力、コミュニケーション力を持ったマーケターが不可欠です。社内でこのような人材を育成し、顧客視点のマーケティングを実践することで、企業はAI時代を生き抜き、更なる成長を遂げることができるでしょう。

執筆者

マーケティングアイズ株式会社 代表取締役 理央 周(りおう めぐる)
石油会社、家電メーカー、大型車両メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、法人営業にマーケティングを注入する社員研修を提供。 2013年より2023年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で23冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典 

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